男「前から歩いてきた通行人とフェイントのかけ合いみたいになった」

リポーター「お二人はいつから、フェイントのかけ合いみたいな状態に？」

男「えーっと、たしか三ヶ月前からですね」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「そのぐらいですね」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

リポーター「三ヶ月！？」

リポーター「三ヶ月間、ずっとこうしておられるんですか？」

男「はい、そうです」ﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「ずっとこの場所にいます」ﾊﾞﾊﾞｯ

リポーター「えぇっと、お食事などはどうされてるんですか？」

男「たまに好奇心で食事を持ってきてくれる方がいるんで、それでどうにかなってます」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「この前なんて、特上のお寿司を持ってきて下さった方もいて……」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

リポーター「そ、そうですか」

リポーター「よろしければ、このパン食べますか？」

男「ありがとうございます」ﾑｼｬﾑｼｬﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「いただきます」ﾓｸﾞﾓｸﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

つまりどっちも無職やんけ

リポーター「お休みなどは、ちゃんととられてるんですか？」

男「はい、22:00から4:00までの間はお互い出し抜くことなく、睡眠を取るということに決まりまして」ﾊﾞｯ

通行人「そういう条約を結んだんですよね。健康のために」ﾊﾞｯ

男「そうそう」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「やっぱり一日六時間は寝ないと健康によくないですし」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

リポーター「じょ、条約ですか……」

マンツーマンディフェンス

リポーター「ではこれからも、お身体に気をつけて頑張って下さい」

リポーター「いつかお二人がちゃんとすれ違えることを祈っています」

男「ありがとうございます」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「励みになります」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ



リポーター「以上、現場から中継でお送りいたしました」

一年後――

男「ふっ、ふっ、ふっ！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「はっ、はっ、はっ！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ



ガイド「こちらがこの地域の名物である、フェイントのかけ合いみたいになってるお二人です〜」

ガイド「食べ物を与えると喜びますよ！」

観光客A「ほぉ〜、こりゃすごい」

観光客B「面白いねえ」

観光客C「写真撮っとこう」ﾊﾟｼｬｯﾊﾟｼｬｯ

わろた

五年後――

男「うおおおおおおおおおお！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「はああああああああああ！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ



青年「お、まだやってる」

茶髪女「何年か前にブームになってたけど、さすがにもう飽きちゃったよね〜」

青年「ずっと同じことやってるだけだもんなぁ……」

青年「へへ……ビーフジャーキーでも差し入れしてやるか」

茶髪女「やだ、ウケる〜」

１０年後――

男「右と見せかけて左……と思わせ中央突破――はせず、右ィ！」ｽﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「左と見せかけて右……と思わせ中央突破――はせず、左ィ！」ｽﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ



シーン……

３０年後――

ヘルメット男「あのー、すんません」

男「はい？」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「なんでしょう？」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

ヘルメット男「ここらへん再開発で、工事しまくるんですが、よろしいですか？」

男「どうぞどうぞ！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「私たちのことは気にせずやって下さい」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

ヘルメット男「ありがとうございます」

ヘルメット男「よーし、工事はじめっぞー！」

ドドドドド……！　ガガガガガ……！

５０年後――

男「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「はあああああああああああああああああああ！！！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ



老婆「おやおや、昔私たち、あの二人をよく見に行ったわよねえ、おじいさん」

老人「そういや、あの二人に昔、ビーフジャーキーあげたっけなぁ」

老婆「あの二人はまだまだ若々しくて羨ましいねえ」

老人「本当じゃのう、ほっほっほ」

１００年後――

男「いやー……町の様子もすっかり変わったな」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「そうだな。あちこちに高層ビルができて、宙に浮く車が走って、自然が減って……」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

男「変わらないのは俺たちだけだな」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「まったくだ」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

男「ところで……今、フェイントのかけ合いみたくなってから、どのぐらい経ったっけ？」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「ちょうど100年ぐらいだと思う」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

男「100年かー……実感ないなぁ」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「こっちもさ」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

男「ていうかさ」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「ん？」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

男「なんで俺たち死なないんだろうな」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「……なんでだろ。考えたこともなかった」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

…………

……

あの世――

鬼「あのー……閻魔大王様」

閻魔大王「なんだ？」

鬼「こちらの映像をご覧ください」ｳﾞﾝ

鬼「この現世でフェイントのかけ合いみたくなってる二人ですが」

鬼「人間ならもうとっくに死んでおかしくない年齢のはず」

鬼「なのになぜ死なないんでしょうか？」

閻魔大王「ああ、それはだな……」

閻魔大王「あの二人の上の方を見てみろ。お前なら見えるはずだ」

鬼「あ」

男「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

通行人「はああああああああああああああああああ！！！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ


死神A「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

死神B「はああああああああああああああああああ！！！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ



鬼「死神がいますね……」

閻魔大王「男の上には通行人の魂を刈り取る役目の死神がいて」

閻魔大王「通行人の上には男の魂を刈り取る役目の死神がおるのだが」

閻魔大王「偶然にも、下の二人と同じようにフェイントのかけ合いになってしまったのだ」

閻魔大王「本来ならあの二人は100年前に魂を刈り取られて死んでるはずだったのだが……」

閻魔大王「死神どもがああなってる以上、男も通行人も永久に死なないだろうな」

鬼「そういうことだったんですか」

鬼「ですが、不死ではあっても不老ではないはず。なぜ男も通行人も若々しいままなんでしょう？」

閻魔大王「さぁ……多分、あのフェイントのかけ合いが、アンチエイジング効果をもたらしてるのだろう」

鬼「なるほど」

男「――やるな！」ﾊﾞｯ

通行人「そっちこそ！」ﾊﾞｯ

男「せっかく100年続けたんだ……こうなったら1000年目指そうぜ！！！」ﾊﾞｯ

通行人「おう！！！」ﾊﾞｯ


死神A「お？　人間どもは1000年目指すってよ！」ﾊﾞｯ

死神B「だったら俺らは10000年目指すしかねえな！」ﾊﾞｯ







―　おわり　―

嫌いじゃない

乙
面白かった

今度誰かとフェイントの掛け合いになったら俺も一万年目指すわ