帰ってきたっていう思いよりは、変わったなという思いの方が大きかった。
自分が覚えている景色と何かが違うけど、何が違うのかもはっきり思い出せないくらい俺は自分が生まれ育った所を忘れかけていた。
典型的なダメ親父で、酒飲んでよく俺殴ってきた。
結局それが耐えられなくて小学校高学年の時に離婚して逃げるように引っ越した。
家までの道はちょっと迷いながらもいけたよ。
クソ暑い中汗だーだー流して、昔の自分はよくこんな暑い中走り回れたなあとか思ったけどw
庭とか見ると一応手入れはされてるから誰かいるのはわかってたけど、なんせ連絡も取らずに来たのでほかの人が住んでるかもしれない。
これで親父も引っ越すなり死んでたらここまできた苦労が水の泡w
指震えるし膝まで震える。
もう俺も成長して背も高くなって体格も良くなってるんだけど本能的に父親を怖がってるんだろうね。
家の前で何度も深呼吸してたよ。近所の人に見られたら不審者だったw
で、ようやく押したの。インターホン。
ピンポーンっていってさ。ちゃんと鳴ったんだよ。
ここからまた緊張がすごい。多分汗の量がすごかったのは暑さのせいだけじゃないはず。
で、後ろ向いた瞬間にガチャってドアがあいて、「……どちらさん?」と男が出てきた。
すっごい老け込んだ感じがする男が。
どうでもいい独白だけどね。
パッと見親父だとはわからなかった。
だって、白髪すげえ増えてるし、なんか弱々しくて以前俺に怒鳴り散らして暴力振るってたような迫力が全然なかったもん。
暴力振るわれるのは嫌だったけど、それでも俺にとっては絶対的な強さだった父親がこうも変わってしまうと少し情けない気分になった。
まあ、こんな田舎でこんな家に用がある人間なんてないわな。
だから自分の名前言ったよ。そうしたら「すまなかった」って謝られてなんか拍子抜けした。
で、そのまま家の中に招かれたので入る。
家の中に置いてあるものは昔とほとんど同じだった。
でも俺の背が高くなったせいかちょっと窮屈に感じたかな。
親父が癇癪起こして蹴って壊した壁の穴はガムテープで貼り塞がれていた。
その間お互い無言。
俺は俺で話すことがなかった。もし親父が以前のままの横暴な性格だったら俺もメチャクチャ言えたんだろうけどね。すっかり気分が萎えてしまっていた。
親父もたぶん気まずかったんだと思う。
しばらく無言のあと、また親父が「すまなかった」って謝ってきて、なんか俺も「もういいよ。昔のことだし」って許してしまった。
母親に関して聞かれた時は「死んだ」とだけ答えた。離婚したあとの母親の苦労はあまり語りたくなかった。
親父は離婚してからずっと後悔し続けて俺の養育費を出すと言っていたそうだが、母親は断り続けたらしい。すっぱり縁を切りたかったからなのかな。
で、親父はいつか俺が戻ってくるのを待って、ずっと貯金を続けてたみたいで、通帳には結構な額が入ってた。
今までほとんど任せてた家事なども自分でやらなきゃいけなくなったため離婚してから数ヶ月はストレスとかで大変だったらしい。
で、酒もやめて仕事も変えて底辺ながらも頑張ってたらしい。
家族居る間は荒んでたくせにいなくなってからこうなるってすごい皮肉だよね。
親父も変に頑固なところがあって、ちゃんと行動で示してからもう一度俺たちを実家へ戻そうとしたらしい。
結局その前に母親は死んでしまったけどね。
ま、その話はさておき、俺は用件は済ませたし、あとは変わった町を散策してから帰ろうと思った。
その日の夕食はそうめんだった。
初めて父親が鍋と菜箸を手にするのを見たときなんともいえない気分になった。
そうめんと、焼き魚。
父親の初手料理の味はまあまあだったけど、「どうだ?」と聞かれた時は「うまいよ」と返した。
ここに帰ってきた理由は父親に会うのと、もう一つすごい低い可能性だけど小学校の時好きだった女の子に会えるかもしれないと思ったんだ。
もしもこの町にまだいるんだったらひと目でもいいから会いたかったんだ。
Aは、無口だけど活発な女の子で、何を考えてるかちょっとわからない子だった。
小学校の時、俺が一人で学校から帰っていると、後ろから急に追い掛け回してくるような、変な子だった。
はじめはそんな出会いで始まって、次第に一緒に帰ったり、休みの日は山へ行ったりする程度の仲になった。
で、その子と夏休み一緒にお祭り見に行こうと思ってたんだ。
けど結局離婚したのが夏になる前で、小学生じゃ携帯電話も持ってないしろくに話すこともできないまま突然転校という形になった。
それで一言だけ謝りたかった。
今思い出すと俺きめえwってなるけどその時は本気でそんなこと考えてた。
緊張して寝れないかなとも思ったけど、疲れもあってよく寝れた。
二日目。
起きたのは朝の10時くらいで、リビング行った時には親父は仕事行ったあとだった。
ちゃぶ台の上にスクランブルエッグとごはんにラップがかけてあって、「朝食」と書いてあった。
朝食済ませて外に出ると、急にむわっとした暑さが広がった。
玄関前でアリが行列作ってたのでしばらくしゃがんでそれ見たりしてた。
なんか童心に返ったみたいで一人でちょっとみなぎったよ。
で、アリにも飽きたところで家を出て、ぶらぶら散歩に出た。
「Bはねー。実家から毎日大学通ってるのよw○○大。よくやるでしょーw」などというちょっとした学歴&親孝行自慢を聞きつつ、Aの消息も探ってみる。
「あの子ね、今入院してるみたいよ」
「入院ですか?」
もともと体が丈夫な方ではなかったらしく、よく風邪こじらせたりもしてたそうだ。
その割には俺と結構ムチャしてたけどw
楽しい間は病魔なんて吹っ飛ぶと思いたい。
で、中学ぐらいから結構体調が悪くなったらしく肺炎で入院したりもしたらしい。
病室まではわからないけど、Bが時々お見舞い行ってるらしいから知ってるかもって聞いたので後ほど出直すことに。
病院までは歩いてでもいけないことはない距離だったので、暑いのを我慢して無駄に健康志向で病院下見してこようと自販機で買ったペットボトル片手に病院まで歩いた。
結局病院までは30分くらいかかった。
下見は済んだのでまたそのままUターンして帰路につく。
ちょっと腹も減ったのでどこか食べるところないかなと思っていたら、唐突にラーメンが食いたくなった。
小学校の時、なかなか食べたくても親が連れて行ってくれなかったラーメン屋があったのでそこへいくことにした。
たぶん、当時の俺がこのラーメンを美味いと感じたのは食べる機会が極端に少なく、ありがたがって食べたからだろう。
普通のラーメンを注文して食べてみたら案外普通の味だった。
テレビでは野球の中継もしてるし、どこの昭和だよって思った。昭和生まれじゃないけど。
ラーメン食ったあとは家に戻って昼寝。
夜までしっかり睡眠取ったあと、親父帰ってきてから夕食の手伝い。
夕食はまたもそうめんだった。
暑いからそうめん以外食べたくないらしい。
そうめん食べて、二人で無言で庭側の窓開けて腰掛けて涼んだ。
「そうか」
「もともと体弱かったらしい」
「そうか」
何を言っても全部一言で帰ってくる手応えのなさはちょっとイラッとしたけど、実の父親と並んでいられるだけでも俺の心に何かが戻ってくる気がした。
今は最悪でも、これからはよくなるかもしれないって少し歩み寄ろうと思えたんだ。
俺はやることもなくそのままぼーっとしてたけど、腕とか足とかすっごい蚊に食われているのに気づいて慌てて網戸締めた。
三日目
結局病院に下見は行って道はわかるし、部屋番わかんなくても別に病院できけばいいじゃんってことで俺は病院に向かった。
バスが一時間に一本とか二本だぜ。田舎マジつれーと思った瞬間。
病院の中に入ると、それまでの暑さが嘘のように、むしろ寒気を感じた。
汗が冷えて超寒い。エアコンガンガンすぎわろた。
受付で「Aに面会に来たんですけど」っていうと、看護婦さんが番号を教えてくれた。看護婦さんマジ可愛い。
で、病室の前まできたはいいものの、どうやって入るか迷う。
Aと俺は数年来会ってないし、ひょっとしたら俺のことなんて忘れてる可能性すらある。
一昨日自分の家のインターホンを押した時くらい再び心臓がバクバクした。
病室の表札?にはAの名前。
ドアを開ければ会えるんだけど、なかなか開けられない。
自分は小学校当時から今までずっとAが好きでも、向こうはそうとは限らないし。
むしろ普通からすればそんなのキモいストーカー予備軍みたいな目でみられるじゃん。
反応なし。
少し待って、もう一度ノックしてみる。
反応なし。
入院するほど体弱いなら、もしかしたら反応できないくらいやばい状態なのかもしれないと思い、俺はゆっくりとドアを開けた。
一瞬死んでるかと心配したが、布団がわずかに上下してたので胸を撫で下ろした。
成長したAは、すごく綺麗になってた。
当時の短髪わんぱく少女の印象のまま止まってた俺の中の彼女と、今目の前にいる病的なまでに白く細い彼女の違いが、なんかすごくゾワッとした。
見てるだけでも飽きなかった。
人の気配を感じたのか、Aは俺が腰掛けてから30分もしないうちに目を覚ました。
あんまり頭がまわってないようで、俺を見ても「……B?」って言ってた。
まぁ、真っ先にいつもお見舞い来る奴の名前出るのはわかるけど、ちょっとショックだった。
「だって、あんまり変わってないもん」だって。お前はそんなに変わっちゃったのにな。なんか悲しかったよ。
あと、この数年で俺への呼び方が呼び捨てから君付けになってるのも少し距離を感じた。
でもなるべく暗くならないように、Aの病気には触れず俺の中学高校時代の面白かった話を話して聞かせてた感じ。
今思い返せば病気が悪化してそんなことすらできなかったAには申し訳ない。だって、ずっと新しい話を聞く子供みたいな顔で聴いてるんだ。
その話だけで気が付けば空が暗くなり始めてた。
帰り道歩いてて思ったけど、田舎ってすごい虫多いのな。
あっちこっちで虫が甲高い音で鳴いてるの聞きながら歩いてたら母親の死とかAの姿とか思い出して泣いてしまった。
寄り道したり途中で立ち止まったりしてて、家に着いたのは一時間後くらいだった。
三日連続そうめん。
今度ちゃんとした料理を作って上げたほうがいいかもしれない。
メールで大学の友達とかとちょこちょこ連絡とってるうちに睡魔が来てその日は寝落ち。
四日目
朝起きて、炊飯器の中に残ってたごはんでおにぎりを作った。
合計で三つ。
それをアルミホイルでくるんで、あったかくならないように断熱剤入ってる袋(銀色のアレ)の中に入れて家を出た。
病室についたらAは居なかった。看護婦さんが検査だって言ってたのでぶらぶらして終わるのを待つ。
A「いつも時間があるとお見舞い来てくれるし、私ほとんど友達いないから嬉しいね。優しい人だよ」
病弱なせいで結局学校も休みがちになり徐々に友達とも疎遠になっていったのだとか。それでもBはずっとお見舞いを続けているらしい。
お見舞いで元気もらってるのはいいことなのに、どこか嫉妬しちゃう俺って女々しいよな。
しばらく話し込んだところで、俺はおにぎりを取り出した。
すると、Aはためらう様子もなくその中から一つを取った。
栄養とかはあまり気にしなくてもいいらしい。本当か知らないけど。
おにぎりなんか数年ぶりだそうで、「すごくおいしい」と何度も言いながら食べてくれた。
【笑ったら心臓麻痺】デスノートコラクッソわろたwwwwwこれはやっぱレジェンドだわ・・・・
検査終わった直後に話しておにぎりも食べて少し興奮したから疲れたのだろうと思って、俺はその場は退散した。
それから帰りにスーパーに寄って家で俺が料理を作ったった。
大したものじゃないけど、ごはんとサラダと餃子。
母親が上手で、よく手伝いもしてた自信作。
オヤジに食べさせたら「うまい」って言ってくれた。
「ぼくのなつやすみ」をすごい無駄に過ごしているバージョンだなって自分で思ったよ。
有意義なこと、何一つしてないもん。バイトすらしてないしね。
少しこちらの生活も慣れてきたし、俺お茶でいいから父親に一杯飲まそうと思ってビール買ってきたけど飲まないって言われた。
gdgdしてた俺は昼に起きて、それから病院まで歩いて行った。
途中散歩も兼ねたので1時間くらいかかった。
病院につくと、いつものようにAが迎えてくれた。
「1君はいつまでここにいるの?」
「うーん、夏休みいっぱいいれたらいいけど」
これでも親父の家を間借りしている身なので少し肩身は狭い。
でも、できるだけAのそばにいたかった。
Aから話も聞いてたし、彼がBだっていうのはすぐにわかった。
「よう、久しぶり!元気だったか?」
小学校のときからかなり運動が好きだったBは健康的な色黒で、男の俺が見てもかなりいい男だった。
小学校の時と変わらない振る舞いで、Aだけじゃなくて俺まで笑わせた。
Aがこんなに楽しそうな顔するんだなっていうのをその時初めて知った。
Bの話はあまり耳に入らず、俺はずっとAの表情の変化を眺めていたきがする。
彼女が反応しないのを確認するとBは俺の方を見て「まずはおかえり」と言った。
ここへ帰ってきてから「おかえり」と言われたのは初めてで、そんな小さな一言でセンチメンタルになって泣きそうになったw
なんだか、転校してから今までずっと体に張り付いた鉛が落ちるような感じだった。
結構話し込んだところで帰るかという話になり、途中までは歩いて一緒に帰った。
Aの話にはBがよく出て嫉妬もするけど、それでも彼の性格では憎めなかった。
六日目
その日は雨が降っていて、どこも行く気がなかった。
昨日Bと話したときの葛藤も残っていて、どんな顔をしてAやBに会えばいいのかもわからなかった。
だからずっと家でゴロゴロして時々本読んだりメールしたりして時間潰してた。
依然空は曇っていたものの、雨も超小雨だったし、病院へ行こうと思ってオニギリを持っていった。
今度は五個。Bが来たら彼にもあげなきゃいけないし。
でも、病室にはAがいなかった。看護婦に聞いたらまた検査らしい。
仕方ないのでまた以前みたいにぶらぶらして時間を潰した。
検査が終わってから病室へ行くと、Aは少しつらそうだった。
「大丈夫?」俺でも見てわかるくらいの不調なのに、「大丈夫だよ、待っててくれてありがとう」なんて笑って返事するんだぜ。
人のこと気使う前に「具合悪いの見て分からない?今日は帰ってよ」くらい正直に言ってくれたほうが楽なのに。
体調悪い時こそ人が話しかけたり傍にいるだけでもいいっていうのわかってるのに、Aが辛いの見てるだけで耐えられなくて逃げ帰ったわ。
おにぎりも袋から出すことなく結局家で昼飯と夕食の一部になった。
八日目
お見舞い行こうと思ったけど、昨日体調わるそうだったし大事をとって一日ゆっくり休ませてあげようという判断で放置。
ほんと、思い出すだけで自分最低だと思うわ。
ぶっちゃけね、毎日顔だして飽きられるのも怖かったんだと思うけど。
「なんでお見舞いいかないの?」みたいな感じだったと思う。
「体調わるそうだったから……」って言っても、なんだか俺の心の中全部見透かされてる感じがしてすごく気持ち悪かった。
いろいろ話したけど俺がほとんど言い訳してただけだったかも。
Bは「あっそ」だけ言って電話をきった。
AにもBに合わせる顔もないとか思いながらのろのろ病院へ向かう。おにぎりはなし。
病院に着くと、BはいなくてAだけが「いらっしゃい」っていつもどおりの調子で迎えてくれた。
昨日の出来事も何も聞かず、ただいつものように俺と話をした。
ひょっとしたら、Aも俺の考えてること見抜いた上で気づかないフリをしているだけじゃないかと思った。
Aは唐突にそう言った。
俺は祭りのことなんてすっかり忘れていた。
そもそもAのあの虚弱な体。ほぼ寝たきりの状態では祭りに見学に行くことさえかなわないだろう。
だから、言った。
言うまでに深呼吸とかして「どうしたのw」とか言われたけど、気持ちを整えてから言った。
「今年は祭り、見に行こう」って。
すっげえ恥ずかしかったけど、ちゃんといえたと思う。
Aも「そうだね」ってにっこりしながら答えてくれた。
Aはすごい優しかった。
とくに、「何も知らないように見せる」のが上手だったんだと思う。
カマトトぶってるとかじゃなくて、知ったらほかの人が傷つくようなことをあえて知らないフリをする。
でも、Aがそうやって人を守ってばかりで自分が言いたいことも言えないのはちょっと嫌だった。
すごい月並みだけど、言っておくのと言わないのでは違うかなと思って。
Aは「うん、ありがとう」と言ってくれたけど、結局俺に愚痴ることはなかった。
ちょっと話の進行kskさせます。
でも以前のようにいつでも病室にいるという感じではなくて、検査に行くことが多くなった。
そして、検査が終わったあとのAはとても疲れているように見えた。
だから俺とBは時間があるときはAの病室に集まってAが眠るまで一緒にいた。
でもだんだん話すよりも聞く側に回るほうが多くなっていった。
俺とBのやり取りを見ながら聴きながらいつの間にか寝息を立てているAを見て俺とBはなぜか少し照れくさそうに笑った。
「ちょっといいかな?」
「なんですか?」
「Aちゃんね、多分、もう長くない」
「 」
長くないって、何が?
最近ずっとしんどそうだし。
余命を聞いても、看護婦は「さぁ……」しか言わない。
「先生が言うには持って半年らしいけど、3年くらい前から同じこと言ってるのよね……」
もう俺頭真っ白。自分が余命半年って言われたぐらい衝撃を受けた。
でも、それだけに嫌でも信じざるをえなくなってしまう。
「だからね、今のうちにたくさん話してあげて。Aちゃんが寂しくないように」
そんなこと言うために呼び出したの?冗談やめてよ、ハハ。
笑えないって。
もともと母親は誰かわかんなかったらしいが、父親もAが入院を始めてから蒸発。
お見舞いに来る人間が俺とBしかいないのも、なんとなく納得できた。納得したくなかったけど。
体も動かない、一番の拠り所の家族もいない、家にも帰れないって、なんで誰にも言わないんだろう。
家に帰ってからそれが空回りじゃないかどうか心配でどうしようもなくなって深夜に家飛び出して近所を猛ダッシュして疲れないと寝れない日もあった。
それでも俺とBは空元気を続けた。
祭りがだんだん近づいてきた。
「こんな体じゃ付き合えないよwデートもできないし、迷惑かけっぱなしでしょ?」
Bだって、Aのこと好きでお見舞いに来ているわけだし、いいんじゃないかなと俺は言う。
思ってることと違うことがポンポン口からでる。
本当は俺が一番そうなりたいのに。
AとBが話しているとき、Aが俺には見せない表情を見せるのを妬いてるくせに。
結局Aは「それでも、Bとはそういうの考えてないよ」と言ったけど、俺はその夜帰ってから泣いた。
もう少しで終わります!たぶん!
お祭り前日。
病室の中の雰囲気はいつもと同じだった。
お祭りなんてないかのような雰囲気。
俺がいて、Aがいて。
Bはバイトでいなかったが。
しばしの雑談のあと、先に切り出したのはAだった。
「うん……」としか答えられない。
だって、どう見たってAの体調は良くなさそうだった。
「ごめんね、約束守れなくて」
なんでまだ始まってないのに謝るかな。俺、数年前の約束破ったことまだ謝ってないんだけど。
今回の夏休みが最後かもしれない。
その焦りが俺に馬鹿なことを言わせた。
「明日の夜、あいてる?」
この時は緊張する余裕すらなかった。ただ今言わなきゃダメだと思って、気づいてたら口にしてた。
そうこれば、俺はやらなきゃいけないことがある。
Aが眠くなるまで話したあと、俺は例の看護婦さんを探した。
「はぁ!?」
看護婦さんは素っ頓狂な声で俺のお願いを却下した。
「ダメ。そもそもお祭りなんて人の多いところで歩けるほどAちゃんに体力無いの知ってるでしょ」
「じゃあ、俺おぶりますから」
「えっ」
「お祭りの間ずっとおぶっていきますから」
「そーゆー問題じゃなくてね・・・」
「携帯番号教えて。すぐ連絡できるように」
「あと、Aちゃんの体調少しでも悪そうだったらすぐ帰ってくること」
など細かく言われ、一応の許可は出た。
病院出たあとガッツポーズしちゃった。
お祭り当日
朝、おにぎりを持って病室に行く。
Aにおにぎりをあげると、普段あまり食事でも食べないのに、一個たいらげてしまう。
夜はお祭り行く許可でたって言ったら信じられなさそうな顔をして「本当?」を連呼していた。
かわいすぎて辛かった。
午後5時頃にBも呼んで病院に集合した。
Bは浴衣姿だったが、俺とAは持っていないので普段着のまま。あとで知ったことだがAには看護婦さんがいろいろ貸してあげたらしい。
そして、俺がAをおぶって病院を出た。
だからBが人からAを守る役割をしてくれた。
あの屋台を見たり、この出し物を見たり。
おんぶされながらいろいろなものを指さすAは小学校当時の彼女とダブって人前なのに涙がでそうになったw
石段に腰掛けて周りを見回すと、境内の裏や、物陰っぽいところに何人かいる。
「俺、飲み物買ってくるな」とBは俺達を置いてジュースを買いに行ってしまった。
「今日、ありがとうね。本当に、すごい楽しかった」
とAにド直球で言われ、すぐに切り返せない俺。
「俺も。Aと一緒にこれて良かった。また来年も来ような」
Aは少し間をおいて「うん」と頷いた。
しばらく無言。Bが帰ってくる気配もない。
「「あのさ」」漫画じゃないんだからこんなところでかぶるなよって思ったよ。
でも俺もAも「どうした?」「先に言っていいよ」みたいな譲り合いしてうやむやになっちゃいそうだったんだけど、
Aが「Bと付き合わなかったのはA君を待ってたから」なんて言うから俺どうしようもできなくて、泣きながらAを抱きしめた。すごいかっこわる。
ほんと、嫌いになりそうなくらいバカだと思うよ。でも嫌いになんてなれるわけないじゃん。
親父だって、そりゃ虐待とかあって散々な目にあったけどそれから数年ずっと待っててくれて、Aも俺が急に転校してから今までずっと待っててくれた。
俺は多分世界で一番幸せだと思った。
夏祭りが終わってすぐ、かなり疲れたと思うけど、そのコンディションのまま体のあっちこっちに一気にガタがきたらしい。
逝ったのは深夜で、最期を看取ることは出来なかった。
思い出になるようなものも何も残さず。
家族さえ残さず。
思い出だけ残して、彼女は消えた。
長かったですがありがとうございました。
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