高校の時の自分は本当に平凡な学生で、よくも悪くも楽しく過ごしてた。
田舎の高校で田舎の高校生がフツーに学校に通ってる感じ。
部活のバレーボールが大好きで、ひたすらそれに打ち込んでた。
この時はまだ絵を描いていなかったよ
絵を描き始めるまでのエピソードがちょっと長いけど、すまん
誰に似てるかって言われると難しいけど、モデルの田中美保…
に雰囲気似てたかもしれない。あくまでも雰囲気だけねw
そこまで可愛くはないよ
当時通ってる塾が一緒だったから、自分が部活休みだったり早く終わった日には
一緒に帰って塾の自習室に行ってたんだ
そのときの俺は童貞だしウブだったけど、彼女はサッパリした性格で一緒にいてすごく落ち着いた
でも好意はなかったと思う。
ある日いつものように一緒に塾に向かってる時に言われた
美保「ねえねえ、今日ウチ来なよ」
俺「え、いいよ。家行くって…おかしくね?」
俺は怪しいと思った。あくまでそういう関係と思っていなかったし、当然断った。
美保「今日親いないんだよ〜近くだし、別に深い意味はないしさw勉強教えて欲しいし」
絶対行っちゃいけない気がした
別に本当に何もないと思う。でもここで行ったら関係が変わる気がした。
ちなみに俺は高校まで電車通いだったから、この時俺の家に行くって選択肢は自然と出てこないんだよね。
美保「別にいいじゃんwあ、変なこと考えてる?いやいやないないw部屋の模様替えしたし見て欲しいだけw」
俺「まあちょっとだけ寄ってすぐ塾行くよ…」
俺は本当にちょろっと寄ってすぐ塾に行くつもりでいた。
でもこの判断が本当に間違いだった。この時のこの選択で、大袈裟かもしれないけど人生の道が少し変わってしまった
家には本当に誰もいなかった。平日18時すぎ…もうちょい遅かったかな。
家は真っ暗でガランとしていた。
なんか嫌な予感はしていた。
彼女は急に無口になって俺を部屋に誘導した。
女の子の家に上がるのは初めてのことではなかったけど、いやに緊張したのを今でも覚えてる。
この後どーなるんだwktk
部屋に入ると彼女の目付きが変わっていた。
彼女はずっと黙っていた。
すると急に押し倒された、どエライ勢いで。
「な、何…?」
急に怖くなった。
美保「なんで…そんなんなのよ…」
「え…?」
塾の講義でたまたま近くに座って休憩時間に話して打ち解けて…
とかそんな感じだったと思う。
的なことを言ってた気がする。よく覚えていないんだが。
そのあと、彼女はすごい形相で俺の服をひき剥がした。
信じられない力に形相、抗うんだけどもう滅茶苦茶だった。
美保たん、どーしたの?
美保「こんなものがあるからぁ…私以外を見ちゃう」
正直もう何も分からなくなってた。
彼女は泣きながら自分も服を脱いで発狂したようにひたすら俺を押してきた。
ちょっとこれ以上は書くのが辛い…すまん
要はされてしまったってことです
当時の俺はこれが初体験…になってしまうわけでw
当時の俺はウブもウブ、男女関係にもっと綺麗な理想を描いてた。
この体験が、自分でも信じられないくらいトラウマになってしまった。
なにより信じていた異性の、あまりに猟奇的な本性を見てしまい、異性不信という状態に陥ってしまった。
無論、美保とはその後一切連絡をとることはなかった。
ストーカーとかになったら怖いという感覚もあったが、それからは一切向かうからも連絡がなくなった。
通ってた塾も俺は辞めた。
今思えば、どれだけショックだったんだろうなw
とにかく相談するにもこんなこと言うのも恥ずかしくて仕方がなかった。
体調が戻って久々に学校に行くことにした。
幸い、理数系の進学クラスみたいな所にいたので、クラスに4人くらいしか女子がいなかった。
これが本当に救いだった
ただ後になってクラスメイトに聞いた話によると、久々に来た俺は本当に無口で人が変わったよう、だったらしいw
工業系?
学校自体には普通に女子いたよ。
今まで皆勤で、部活も休んだこと無いおれが4日も学校を休んだのですごく心配だったらしい。
ちなみにこのキャプテンは板尾創路に似ているので、板尾と呼ぶことにする。
クラスは別のクラスだ。
部活終わり、皆帰ったあとの部室。
板尾「お前何かあったのか…声もあんまり出てなかったし」
「い、いや…」
この板尾先生に言ってみなさいww」
板尾はこんな感じのノリの男だった。本当にいいやつなのだ。
それでいてけっこう女遊びもやんちゃなヤツで、そういうこともよく知っていたw
だから相談するなら絶対板尾だろう、と俺は思っていた。
板尾は何も言わなかった。ただ、泣いていた
俺も泣きながら話していたからだろうか。
この話で男二人して泣いてるって今思えばすごくおかしいんだけどw
高2のガキにとってはそれほどショッキングなことだった。
音楽、絵、創作関連で夢を追ってる方には特に…
好きなことは思いっきりやってほしい
すごく部活が楽しくて、色々忘れられた。
ただ、異性不信が思った以上に深刻で自分でも驚いた。
女子と顔合わせられなくて、話そうとすると動悸がして、吐き気が出るようになってた。
ただ、女子が好きという気持ちはもちろん強く生きていた。
だから恋もしたかったし、女の子とも当然話したかった。当たり前だよね。
その状況をどうにかしたかった。
板尾に相談した。
実はこの板尾という男、ナイスオタクで絵描きであるという一面もあった。
板尾の絵はすごい上手くて、デッサンからイラストなんでもできた。
現実はこんなもんだよな
でもこれが今の俺の、支えになってる。この一言が。
板尾「絵描こうぜ?一緒に。楽しいからさ」
「絵?いやお前が絵が好きなのは知ってるけど…」
板尾「お前の理想の女の子をさ、紙の中に落とし込めばいい」
板尾「青春の形なんて人それぞれだ。現実が今は無理なら、とりあえず絵の中に女の子を描いてみるってのはどうだ?」
非常にめちゃくちゃな事を言われた気がしたw
絵はひたすら自分の描いてるものと向き合うことだから。それで徐々に慣れていけばいいよ。そしたらいつか実際の女の子とも向き合えるようになるさ」
きっとこれは、板尾なりの優しさだったんだと思う。
きっと描いてる本人が一番絵の楽しさを知ってるから、俺も楽しめると思ったんだろう。
男なんだしありえないとか、男男っていって聞かないどころか
お前が襲ったんだろうと言い出す奴も少なくはないからな
だが…辛いな
絵を描くなんて思ってもいなかったからだ。
俺はまったく絵に関心がないというワケではなかった。
幼い頃はカービィとか描きまくってたし、
中学の時は授業中にヒカルの碁とかドラゴンドライブとかを模写して遊んだりもしてた。
でもやっぱり人間を描くのは難しくて、高校に行ってからは
まったく絵を描く習慣はなくなっていた。
あんまり言っちゃうとストーリーのネタバレになりそうで現在のことは
あんまり言えないけど、どこにでもいる萌え絵描きだよ
特に良かったのは「スーパーマンガデッサン」
これを元にひたすら絵を描き続ける日々が始まった。
描き始めは楽しくて仕方なかった。
上手くいかないことも多いけど、女の子を描くことはただ、ただ楽しかった。
蜜を舐めるかのように、どんどん絵を描くことにハマっていった。
板尾は美大を目指す、と言ってその勉強を始めた。
俺は特進クラスにいたので、美大を志望にすることはできなかった。
とは言え絵のレベルもまったくそのレベルに達していなかった。
とにかく部活がなくなってある種空っぽになってしまったので
ひたすら絵を描くことを楽しんだ。
学校終わって某進衛星予備校行って受験勉強して、そのあと家で夜9時〜午前3時まで絵を描く
そんな生活をしていた
学校ではできるだけ他のクラスの女子に会わないようにしていた。
絵を描き始めて気持ちは晴れたが、板尾いわく
前より人に距離を置くようになったと言われた。
そんなこんなで板尾は美大受験、俺は絵を描きつつ受験勉強。
そんな感じで高校時代は過ぎていった。
板尾は東京の私立美大に進学した。
俺は大学に行ったら新しい環境で異性不信も減るだろう
と思っていたが、それが甘かった。
新生活でみんな浮かれているが、その波に乗り切れない。
異性と話すのは相変わらずダメで、部活やサークルもどうするかすごく悩んだ。
「美術部か…」
もともと板尾だって俺が実際の女の子にまた向き合えるように絵を描くこと
を薦めてくれた。
同じ絵を描くことが好きな人達とだったら上手くやれるかもしれない。
そう思って俺はとりあえず美術部の部室を目指した。
と色々なことを悩みながら。
部室棟の階段を登って美術部を目指した。
…結果から言って、想像しているのと違った。
新入生の女の子も一杯いたが、ウマが合わなかった。
ショックだったが、展示会を頻繁にやっているそうなので、籍だけ入れた。
しかし、この展示会のために籍を入れたのが、本当に、本当に、良かったんだ。
部内で有志を募って作品を集めて
いい感じのギャラリーを借りて展示会をする感じ。
俺は当然同人活動もするつもりでいたんだけど、展示会にもすごく興味があった。
なので籍をいれておいて、展示会には作品をだそうと思った。
結果的に、人付き合いは避けたってことになるんだけどね。
さっそく作品を描くことにした。
最初の展示会だし、気合入れてみんなをビビらせようとも思った。
これと並行して、板尾のいる美大にも何度も潜りこんだ。
不思議と美大の連中とは楽しくやれる気がした。
板尾に人体デッサンとかパースみてもらって、ボコボコに言われたりしたw
みんな浮かれて、楽しんではっちゃける所だろう。
俺はといえばろくに自分の大学のヤツとは親しくならず
家に篭ってひたすら絵を描くことを繰り返し
美大に潜ってそこの連中と仲良くなったりしていた。
今思うとヒドイと思う。
自ら青春を放棄した感じもするが、この時はそんなこと忘れるくらい楽しくもあった。
またそれ以上に板尾がとても良い奴で、板尾と絵を語るのが楽しかった。
板尾「お前も随分上手くなったよなぁ」
「ったりめーじゃん!w6月に展示会だし、一発かまさないとな!w」
板尾「調子のんなよ人体の筋肉もまだろくに知らんクセにw」
「まあ大学でも女子と上手く話せないけどさ…」
板尾「…まあ大丈夫さ。きっといいことあるよ!」
「そうかな…」
板尾「勇気出して部活入ったじゃねえかwなんとかなるよ」
これがフラグだった。
俺も、なぜだか分からないけど6月の展示会にものすごく賭けてた。
今でもなんであんなに必死になっていたかはよく分からない。
そして6月の展示会の当日。
俺は慣れない風景画をデジタルで描いた。
搬入は朝、出品するその人自身で作品を会場に搬入する。
でも、現実は厳しい。
展示会当日の朝はど緊張。
まず自分の絵を人前に初めて晒す。
そして、部員と協力して会場を設営しないとならない。
まさに二重苦。怖くて仕方ない。
入部して二ヶ月なのに大体の人が初対面w
ただ、部長が優しくて助かった。部長は女性だった。
部長「華丸君初めて見たなーwイイ絵描くね!」
「ええ、まあ…」
この時点で凄い動悸なのである。耐えられない。
部長は優しい。分かってはいることである。
でもダメなのである。俺は会場のギャラリーのトイレに駆け込んだ。
どうして。
落ち込みつつ会場に戻ると
部長「華丸君今日体調悪そうだねー」
部長「シフト、午後からだから。それまで一旦大学戻って仮眠しなよ」
「はい…」
ありがたかった。俺は一旦大学に行って寝ることにした。
まったく面倒なヤツである。
午後から展示会の受付のシフトがある。二人一組。一体誰と一緒なのか…女子だったら…
ココリコ遠藤に似ていた。
遠藤「お!はじめましてかな?」
「(男か…よかったわ)そうだね、初めましてだね」
遠藤「おうおう!今日シフト一緒みたいだしよろしくな!」
「よろしく!」
遠藤「なんか華丸の絵けっこう人気みたいだぜーwアンケートにもけっこう書かれてるし」
「えっマジか」
付き合ってやろう。
板尾以外に自分の絵を見てくれる人がいるのも嬉しかったが、
自分の絵を気に入ってくれる人がいることが嬉しかった。
そして、そこに思いもよらぬ展開があった。
受付と言っても割と暇なので、俺はせまいギャラリー内をフラフラしていた。
俺の絵の前で立ち止まってる女の子がいた。
「うわ、俺の絵の前でずっと立ち止まってる…」
そしてその子はぼそっと「これいいな」と言って
俺の絵を写真に収めた。(撮影おkなので)
すごく悶々とした。こんなことは初めてだった。
目の前で自分の絵を気に入ってくれた人がいる。
でも女の子だったし俺はすごく話しかけるのに戸惑った。
制服を着ていたし明らかにJKであることは分かった。
その子は胸が大きい子だった。なのでそに子と呼ぶ。
そに子「あの…この絵描いた人って今ここにいますか?」
「(…!!)あ、それは…自分が…」
そに子「え、あなたが…すごいですね…!何使ったんですか?」
「え、えとデジタルで…ペインターとSAIで…」
もう、頭がクラクラしてどうにかなりそうだった。
今この状況が信じられない。
一回でいいから俺にも分けて。
ちなみに救われたってのはこの子はあんまり関係してないかもw
多分みんなの予想してる展開とは違うよ。
向こうも自分も顔真っ赤だったんじゃないだろうか。
そに子「また、明日も来ますね…!!」
そう言ってそに子は去った。展示会は二日間だったのだ。
ちなみに俺は二日目もシフトがあるようだった。
遠藤「ちょっとなんすか今のJK〜?」
ここで遠藤である。
「いや、初対面で…なんか俺の絵が良かったらしくて…」
不思議と、俺はこの時は動悸はあったが吐き気を催さなかった。
遠藤「で、連絡先聞いたんスか〜?」
お前はその喋り方をどうにかしろ。
「いやいや、そこまでしないだろ普通…」
遠藤「ふーん…」
しかしこの遠藤がやってくれるのである。
ちなみに二日目のシフトもコイツと一緒だった。
二日目も割と盛況のようだった。
シフトはまた午後。
俺は一日目ほどの緊張はなく、なんだかゆったりとやれた。
でも部員の女の子と話すのは避けていた。
遠藤「おっす!昨日の子来るといいねww」
「お前はまだそんなことを…」
遠藤「なんか楽しいんだもんwってかずるいww」
受付の俺ら二人と、見てる方一人だけ。
遠藤「お、あの子来たぞ…」
入り口付近で遠藤が囁く。
(うるさいやつだなぁ…)
そに子「こんにちは…」
遠藤「昨日も来てくれましたよね、ありがとう」
そに子「はい、素敵な展示なので…」
遠藤の対応は予想以上に紳士的だった。
笑ったつもりだったけど声すら出てなかった気もする、今となっては。
そに子「こんにちは、実は今日何回か来てたんですwやっと会えたw」
遠藤「そこまでして華丸に会いたいのかよーw」
そに子「い、いえ…」
正直、この時既に動悸起きすぎて氏ぬかと思ってた。
「お前何いってんだよ…」
遠藤「いいじゃない、もうファンだよ、ファンw」
でもファンって響きは良かった。
そに子「それじゃ…良い展示でした。ありがとうございました…」
「あ、はい…」
遠藤「あ〜ちょっと待ってよ!君高校生?」
そに子「はい…受験生です…」
そに子「でもこの〇〇大学さんの展示すごくよかったです。
ちょっと大変ですが頑張って絶対〇〇大学に来ます!」
遠藤「あ、おう、それはありがたい…」
遠藤が、ちょっとひいた。
そに子は顔を真っ赤にしている。なぜそんなことを言ったのか…
まずは行動しなw
「あ…いや…ありがとうございます…」
遠藤「わざわざ二日間来てくれる人なんて、きっといないよねー」
遠藤「せっかく来たんだし、連絡先くらい交換したらどうなのよ?」
遠藤のぶっぱが炸裂した。
そに子「いや…でも悪いですよいきなり」
「だよね…」
遠藤が俺の足を踏む。
まあその足踏みが何を言ってるのかは分かった。
「じゃあ…アドレス交換…しとく?これも何かの縁だし」
そに子「いいんですか…ありがとうございます…!!」
まさかこんな事になるとは思わなかった。
高2のあの日以来、初めて新たにできた女友達だった。
そに子「また連絡します!絵のこと教えて下さい!」
そに子は笑って帰った。
遠藤「……」
「いやそれはねーだろ」
遠藤「だってJKだよ?いいなあ、おかしいよ…」
確かにオカシイ。今自分の身に何が起きてるかよくわかってなかった。
俺は興奮してたのか、その日の作品搬出の作業で貧血で倒れそうになったので
ほとんど力になれなかったw
結果ずっと遠藤と話していた。と言うか搬出に男が遠藤しかいなかった。
異性不信だった俺が凄く頑張れた、って本当に前向きになれた。
その後喜んで板尾に報告した。
板尾「やったじゃねえかwwきっとお前にとってその子は
どんな形であれ重要な存在になるよ。ゆっくり向きあっていきなよ」
「え、でもどうしようwwJKだよwww」
板尾「焦る必要はないよwwそれに来年同じ大学になるかもしれないんだろ?w
ゆっくりメールでもしてろよ」
割と定期的にって感じかな?でも会うことはなかった。
久しく女の子とメールなんてしてなかったけど、メールだと本当楽しく話せた。
どうやら彼女は本気で俺のいる大学を目指すことにしたらしい。
俺はといえば、板尾と一緒にコミケに申し込んで、
本格的に同人を始めることにした。
それが、大学1年の夏だった。
俺はそれから板尾と一緒にコミケに向けて頑張ることにした。
各自一冊ずつ本を刷ろうってことにした。
板尾は上手いから個人でイラスト本刷っても多分全然イケる。
でも俺はまだまだ…って感じだった。
板尾は親友だけどそれ以上に憧れや妬みもあった。
板尾くらい上手く描きたい…そう思った。
ページ数決めて、イラストの質上げるほうが良いと思うけど
絵に関わると妬みとかの感情も抱いてた。
馬鹿だなぁって今になって思う。俺は馬鹿だった。
でもちょっと上手くなってきて初心者の頃と違うから、
色々分かっちゃうんだよね。それが辛かった。
大学1年の夏〜秋は毎日泣いて絵を描くこともあった。
板尾に追いつきたいって、すごい必死だったとおもう。
絵を描くのが辛かったな、この時は。
もう当初の目的とかも忘れてたよ。
この頃は1日何時間くらい描いてたんですか?
でもその割に全然上手くならないから焦ってたんだと思う。
板尾がいなきゃ絵に出会えなかったし、立ち直ることすらなかったかもしれない。
だからこそ壁に感じてしまった。
板尾「そんなに焦らないで、自分なりの絵を探せばイイよ」
そう言ってアドバイスしてくれた。
でもそれすらも焦れったく感じた。
よく、優等生な兄弟に劣等感抱く人とかいるだろ?
多分そんな感じだったんだと思う。
必死こいて、板尾がびっくりするような本を描こうと頑張った。
割とそに子にメールとかするようになってたと思う。
元々絵がきっかけで知った子だったし、絵のことを相談しやすかった。
そして、コミケには落ちていた。板尾は落選した。
サークル参加はできなくなった。
なので、板尾の大学の友人のスペースに委託で本を置かせてもらうことにした。
サークルチケットも3枚あるので、俺と板尾と板尾の友人の3人で
売り子はできそうだった。
板尾に色々教わりながら、印刷所のことや原稿の形式とかを覚えた。
ジャンルは創作だった。これは絵を描き始めた時から決めてた。
オリジナルの女の子を描く。
俺は20ページ、オンデマンドでフルカラーのイラスト本を刷った。
50部。果たしてはけるのか。
板尾はオフセットでフルカラーのイラスト本を100部。
お互いはけるかどうか凄い不安だったと思う。
それが今でも分からない。
自然にそうなってしまって…この時は二人で個人本を出すことになっていた
そに子は、なんとコミケに来てくれると言った。
実はあれから一度も会っていない。
こっちは絵を描くのに必死だし、こっちから会おうなんて言わないし…
向こうは向こうで受験勉強ですごく忙しそうだったからだ。
俺はコミケムード、そに子のこと、完全に浮かれていた。
アイツから連絡があったからだ。
1年半も音信不通だったのに。
メールだった。
ちなみに俺は中3の頃からアドレスを変えていない。
なぜこのタイミングで…?
俺はとにかく嫌な予感がした。
返信を返すべきか、2日くらい迷ったと思う。
メシが食えなくなった。あの時と同じである。
トラウマって、やっぱすげーんだね。
さらに、知ってる人は知ってると思うんだけど
この年のクリスマスイブにフジファブリックってバンドのボーカルが亡くなったんだよ。
すっごく好きなバンドだったから俺はそれも凄いショックで、
クリスマスは家で一人で寝込んでたんだよ。
本当この年のクリスマスは色々と最悪だった。
「元気にしてるよ」
とだけ返しておいた。返信しないならしないで角が立ちそうだったからだ。
でもこの選択でのちのち色々面倒なことが起こるのだが…
俺はこの時初めてそに子に電話してみた。
勇気を出して電話したと思う。それほど何かにすがりたかった。
書くほどでない内容のことを話しただけだと思う。
勉強頑張ってる?とかコミケなんて来て平気?とか。
そに子はひたすら、「なんとかなるんだよ」
としか言わなかった。
この時のこの一言にすごく元気づけられたのは今でも覚えてる。
俺も1とタメだが女にストーカーされたのはトラウマだな
ただの「美保不信」に変えてくれたのかもしれない。
とにかく俺の中でそに子の存在はどんどん大きくなっていった。
そう、もうこの時点でだいぶ異性不信はイイ方向に向かっていた。
あの時、美術部に思い切って籍を入れて良かった。
展示会に出て良かった。
病は気からとはまさにその通りだ。
今は板尾もいるしそに子もいる。なにせ絵だってある。
俺は意気揚々とコミケ当日を迎えた。
自分の本が早く見たい。苦労して描いた。
どれくらいの人が俺の本を見てくれるかな。
憧れの作家さんに会える。
そに子は本当に来るのかな。
もう、なんていうか楽しみなことしかなかった。
みんな大好き国際展示場である。
俺、板尾、板尾の友人の三人は、サークル参加。
サークル入場だからスムーズに入れるのである。
やぐら橋の前にはものすごい数の人の群れがある。
板尾「うはwwwこれ全部一般参加かwwwすごいなwww」
友人「あっちにはホストっぽい集団もいるよ…あれオタク?」
「色んな人がいるんだね…w」
見た目完全なオタクからホストっぽいイケメン集団まで、なんていうか本当に
色んな人がいた。なにより人の多さに圧倒された。
俺たちは創作ジャンルだったから西だった。
とりあえず机の上にあるビラをどけて、椅子を下ろして…
スペース作り。俺も板尾も興奮気味。
板尾「ちょwwwダンボール来てるww俺の本www」
「落ち着けよwwあ、俺のもあるよ!ww」
友人「…w」
板尾の友人は経験者なので、至って冷静だった。
コミケはサークル参加者ってのがいわゆる本を売る側。
スペースって言って自分たちの場所が与えられてそこで本を売る。
一般参加者の人たちはそれを購入しに来る人達のこと。
ちなみに俺と板尾はこのコミケの前の夏コミに二人で一般参加した。
板尾はひたすら創作を、俺は創作ととらドラとかの同人を漁った。
これが…これが俺の初めての本…呆然とした。
その後俺は、コミケが開場する前の準備時間にひたすら憧れてる
作家さんのところに挨拶へ行った。
絵を描く上で影響になった人は数多い。
そして、スペースに戻って
「おい、板尾」
板尾「お、どした…今ポスタースタンド立てるのに手こずって…ハァハァ」
「いつもあなたの絵見てます、憧れです。これ、僕が描いた本です、良かったら…」
板尾「なにそれwwww」
「」
板尾「はいはい、ありがとう。これ、俺の本。俺だって華丸の絵は好きだよw」
俺たちは何やってんだw
スペースの準備が終わると、いよいよコミケ開始である。
「…只今より、コミックマーケットを開催致します」
パチパチパチパチ…!!
場内アナウンスと共にコミケが始まった。
板尾「うおお…始まるんだな…」
「こええ…」
遠くから地鳴りのようなものが聞こえる。
板尾「これが…俗に言う…!開幕ダッシュ…!!」
友人「なんだよそのテンションw」
こういったものを味わえるのもサークル参加の面白いところであった。
果たして、俺たちの本を買ってくれるお客さん第一号はどんな人なのか。
ドキドキ…女性がいるわけでもないのにやたら動悸がした。
正直けっこうしんどかったけど、板尾たちには黙っていたのはいい思い出だ。
早々に一発目が売れた。
俺・板尾・友人「ありがとございます!」
人のよさそうなお兄さんが買っていった。
板尾「おお、お…売れたぞ…この手で…直接…売った…」
板尾は感極まっているようだった。
本当に、自分の絵を気に入ってくれた人に
直接向い合って、直接自分の作品を渡す…
板尾はやっぱり繁盛で、すぐに二人目が来る。
「板尾さん…ですか?いつもサイト拝見してます…」
俺たちと同年代くらいの、若い男の子だった。
板尾「マジですか…ありがとうございます…!」
その時の板尾の笑顔がとても嬉しそうで、今でも時々フラッシュバックする。
4月にこのスレに出逢いたかった…
ありがとう!!
159みたいな人にこそ是非見て欲しい話なんだ。
時間が許すなら本当、最後まで付き合って欲しい。一緒に頑張ろう。
このまま仮に一部もはけなくてもいいな、なんて思い出したのを
今でもよく記憶してる。
でも、そんなことはなかった。
俺はこの時サイトやPIXIVで雀の涙ばかりの宣伝をしていた。
それが功を奏したのか。
俺より一回りの歳の離れた男性だった。
客「あなたが華丸さん…ですか。新刊一部お願いします」
「え、おお…は、ハイありがとうございます…!」
そう言ってその方は去っていった。
記念すべき、初めてのお客さん。
この記憶はもう一生忘れられないだろう。
「ちょちょ…み、見た!?俺の本!!売れた!売れたよ!!」
板尾「良かったなあ。ほんと、俺たち頑張ってよかったなあ」
自分の描いた絵を、誰かが確かに見ていてくれた。
その事実が本当に嬉しくて、感極まった。
この時の体験が、のちの俺を支える本当に貴重な体験だった。
流石である。
俺はといえば鳴かず飛ばずかと思えば、案外ぼちぼち売れていった。
昼過ぎ…くらいだったか。
そに子が来た。本当にきてくれるなんて…
実に半年ぶりの再会であったが、すぐに気付いた。
ドキッとした。でも普段の動悸とは違うものだってすぐ分かった。
そして俺もいるし、結局来る決心をしたんだとか。
そに子「新刊一部、ください」
彼女は笑いながら言った。
俺も吹き出して、
「いやいや、お金はいりません」
なんて言ってそに子に本を渡した。
そに子「うわ、すいません…ありがとうございます…」
急に真面目になるそに子。
「いや、ほら、いつも言ってる…」
板尾はすぐに察してニヤッとした。
そに子は赤いマフラーを巻いていたが、そのせいか顔も赤くなっているように見えた。
板尾「あなたがそに子さんか…!話は聞いてるよ。
これ良かったら俺の本、あげるよ」
そに子「あ、とっても上手い…!!」
俺は少し嫉妬したw
こりゃ一本取られたなwww
そに子「ええ、まあ…w適当に見て回って、帰ろうかなって。
今まで勉強詰めだったので、今日くらいは少しだけ遊んじゃいますw」
そういうと板尾がコッチをぎろっと見た。
言いたいことは分かっていた。
俺と、板尾と、友人の三人でメシを食おうってことになってた。
それで俺と板尾は地元が一緒。
時分は年末も年末。
なのでそのまま二人で帰郷しよう、という流れになっていた。
そして、板尾はそのコミケ終わりの三人のメシに
そに子も呼べ、と言いたかったのだろう。
なのでまだそれなりに余裕があったんだろう。
「あ、あのさ…そに子ちゃん」
そに子「…はい?」
顔が見れない。色々と辛かった。
「コミケ終わったらさ、俺たちメシ食いに行くんだけど…
良かったらさ、そに子ちゃんも来ない?…ほ、ほら勉強とかも教えられるじゃん」
最後の一言は余計だった。でもこうやって言い訳したのを覚えてる。
嘘みたいに笑ってくれた。
ビックリして心臓止まるかと思った。
そに子「それに…一応勉強道具とかもあるんですよね
なんか必要ないけど普段から持ち歩いちゃう…この気持ちわかりません?w」
(マジか…そこは冗談だったんだけど…さすが受験生…)
板尾「決まりじゃん。じゃあ閉会までまだ時間あるし見たいとこまわっておいでよ」
「そうだね…寒いし、風邪引かないように暖かくしてね」
そに子「閉会時間頃にまたここに来ますね!」
彼は新刊を落としてペーパー頒布だったので、終始俺らの売り子を手伝ってくれていた。
板尾「すっげえいい子じゃん、顔赤くしちゃって」
「そうだね…」
板尾「お前にはもったいないな。で、トイレ行かないの?」
「いや、全然快調。吐き気とかしないよ」
板尾「成長したな」
美穂の再登場が怖いけど楽しんで読んでます!
板尾の本が完売した。
あいさつ回りにも行ったから、実質80部くらいだったと思う。
板尾は泣いていた。ぐしゃぐしゃになってた。
俺も泣きそうになったが耐えた。
俺の本も実質40部弱、そろそろ完売しそうだったからだ。
高校で出会って、バレー部で3年間共にして。
自分の感情には素直な奴だった。
間違いだと思ったら、例え相手が先輩でも食い下がるし。
試合に負けたりしたら大泣きして、勝ったらお祭り騒ぎをする。
そんなヤツだった。
完売したら板尾は泣くだろうなあと予想していたけど
やはり俺もつられて泣きそうになる。
でも頑張って耐えた。
よく覚えていないけど
俺の本もその時を迎えた。
俺の最後の一冊を買ってくれたのは
俺より一回り小さいくらいの女の子だった。
名刺を渡してくれたのを覚えてる。
「あ、ありがとうございます…!最後の一冊です…!」
女の子「本当に?やった、ラッキー。これからも頑張ってくださいね」
か、完売した…!?
パチパチパチ…!
周りのスペースの人たちが拍手をしてくれた。
隣の方「若いのによくやったねえ。おめでとう」
「あ、ありがとうございます…うえ…」
「い、板尾ぉ…」
板尾「おう、よくやったな…俺たち…うええ…」
二人で大泣きした。
よく覚えてないけど、けっこうな時間泣いてた気がする。
でも一瞬だった気もする。
もうよく覚えてないなあ…
その間板尾の友人が笑いながらスペース片付けたり、
「スケブする?」とか聞いてきた気がする。
コミケ前に絵が上手くいかなくて板尾に少しイライラしていたのを悔いた。
やっぱり板尾はすごいし、憧れ。
でも俺は俺なりの絵を描けばいいんだと、思えた。
そうなるともう嬉しくて仕方なかった。
それ以上に、こんなにも一緒に感動を共有できる板尾のことを
一瞬でも「アイツはずるい」とか「邪魔だ」と感じてしまった
自分が情けなくて仕方なかった。
もう自分でもなんで泣いてんだかよく分からなかった。
最後まで見てます
俺達も少しフラフラした。
スペースでは板尾の友人がスケブを描いていた。
友人「俺はここにいるから、二人は色々見てきなよ」
いいやつすぎる。
コミケも佳境に差し掛かっていたが、作家も、買い手も目を輝かせていた。
この時見た景色は今でも忘れらない。
ビッグサイトの、あのバカ広い会場の中で板尾と二人で歩いた。
今でも思う。
「以上をもちまして、コミックマーケットを閉会します…」
パチパチパチ…!!
板尾「終わったなあ…」
「いやー気持ちいい」
友人「お疲れさん、二人とも」
そに子「ごめんなさい…みんな撤収しちゃってて、迷っちゃいました…」
相変わらず顔を真っ赤にしていた。
「いや…全然大丈夫だよ」
板尾「面白い子だなwそれじゃみんな揃ったし、ここにいるのもアレだから
とりあえずビッグサイトから出るか?」
「腹減ったーメシいこうメシいこう。」
そに子を交えて晩飯タイム。俺は意気揚々としつつ、
いつも通りでいられるか不安だった。
ビッグサイトを出る。
りんかい線に乗る。駅に着く。
俺はその間ずっとそに子を見ていたし、そに子を気にかけていた。
コミケの帰りって、ビッグサイトから国際展示場駅まで、怒涛の人の流れなんだ。
俺はその中で絶対はぐれないようにそに子だけを誘導していた。
自分でも確信してしまった。
間違いなかった。動悸がすると言っても今までの異性不信からくるものではない。
異性不信だった俺が、恋である。
俺はそう確信して、ビッグサイトからメシの場所に到着するまでの間、
すごく嬉しくなってしまった。
下手したらもう2度と無理かもしれないと思ってた恋に、
今自分は落ちたんだなあと思うと、ワクワクして、急に嬉しくなった。
それくらい、今までの異性不信にずっと悩んでいた。
そに子にまた直接会って、色々とはじけた気がした。
まあ大して時間もなかったし、板尾も疲れてたから
安く、たくさん食べたかったんだろう。
板尾「そに子さんも、絵を描くの?」
そに子「ええ、少し…でもまだまだ下手っぴですよw」
俺「頑張って練習してるもんね。絶対すぐ上手くなる」
板尾「ふーん…なるほど…」
最初のうちはわりと板尾も穏やかな感じで会話を始めた。
ウチの美大おいでよ。色々楽しいよ」
そに子「ありがとうございます…!華丸さん、行こうね…!」
多分この時俺は顔真っ赤だったんじゃなかろうか。
だって、突然好きな子が隣にいて、自分の方見て話しかけてる
って状況になってるんだ。
メシ食べるのもなんか無理やり行儀よく食べようとしたりしてた。
は、始まった。板尾の悪ふざけタイムである。
昔からこういうお調子者気質な所が彼にはあるのだ。
テンパッてる俺を見て面白くなったんだろうなw
そに子「い、いえ…別にそんなわたし…」
板尾「そに子ちゃん実際学校とかでモテるんじゃないの?」
そに子「いえわたし女子高だし男子いないんで…w」
板尾は俺に気を使って場を盛り上げようとしているようにも見えた。
俺も頑張ってそに子に色々話しかけた。
そに子は終始笑ってくれていた。
とても楽しい時間だった。
でも俺たちの一日はまだまだ終わりではなかった。
東京ってことは芸大多摩武蔵造形のどこかだろ?
科にもよるがすげぇな
板尾とそに子と美大に遊びにいく約束をしたことも。
ただ、なんてことないものだと思っていた。
当然いつか実行できる約束だと思っていたし、何より浮かれていた。
この時交わしたこの何気ない約束が、のちのち俺の人生をまた微妙に変えてしまう。
俺と板尾は故郷に向かう電車にのりこんだ。
少しだけ、長旅が始まる。
窓の外は真っ暗。一日の終わりだ。
板尾はなんだか静かだった。
板尾「ふう…今日一日マジで疲れたな!!本、完売してよかったわあ」
俺「だよね。本当、なんつーか最高の一日だったよ。
多分一生忘れない。」
見届けてやるぜぇ
話が完結したら簡単な絵をうpしてもいいかとは思うんだけど
うpろだとか、ここに絵をあげる方法がよく分からないのよね…w
俺「ん…?」
板尾「ここまで来るまで長かった」
板尾は泣いていた。
どうしてそうなったのかよく分からなかった。
板尾「お前が初めてトラウマの事話してくれた時、俺どうしようかって思った」
板尾「女性に関われないって悩むお前見て、本当にどうにかしてやりたかった」
板尾「俺は絵を薦めた。言葉とか励ましよりも、
とにかく何か夢中になれること見つけて欲しかった。」
俺「そうだったね。本当、絵描き始めて良かった」
ずっと悩んでたんだ…昔言ったろ?
絵を描き始めてから華丸は人と距離を置くようになったって」
俺「確かに高校の時よく言ってたね」
板尾「絵を薦めたものの、それが本当に華丸にとって良く働くのか。
俺は無責任なことをしたんじゃないかってずっと悩んでた。」
俺「……」
板尾「でも、それが…」
こんなにコミケ一緒に出るくらいまで上達した。まぁまだまだ下手だけど…」
俺「泣きながらそれ言うかねw」
板尾「それでそに子ちゃんだよ。あの子が現れてくれて…
異性不信だったお前がまた女の子と普通に楽しく接せられるようになって。」
板尾「本当によかったよ…本当に。
お前あの子大切にしろよ…」
板尾はずっと顔を隠して泣いていた。
俺もだんだんつられて、涙目になった。
ずっと板尾に
「ありがとう、ありがとう」
って言ってた気がする。
俺は実家に帰った。
実家といえば天国、大晦日は紅白見ながらコタツにいれば
自動的に料理が出てくるw
俺はしばし実家を堪能することにした。
でも俺は肝心なことを、忘れていたんだ…
そう、あのメールを…
「久しぶり」
というメール以来メールをしてこなかった。
でもその音沙汰の無さっぷりが、逆に不気味に感じられた。
一体何が目的だったのか…大晦日の実家のコタツで、
俺は自分のケータイを見ながら悶々としていた。
おれはそに子や板尾たちにあけおめメールを送ろうと必死だった。
5,4,3,2…
俺「よっしゃ年越し!ジャンプ!!」
兄「うるせえな」
俺は毎年年越しの瞬間にジャンプをする。
ウチは毎年年越しの瞬間はジャニーズのライブのテレビと決まっていた。
新年を迎えた。去年は色々進歩の年だった。
今年はいい年になるだろうか…
これから良い事なんて何一つ無いとは知らずに、
当時の俺はのんびりそんなことを思っていた。
年を越した瞬間、携帯にたくさんメールがきた。
メールはそに子に、板尾に、高校のクラスメイトに…
美保もいた。
なんとなく予想はしていたが…
もっと体調が悪くなると思ったが、実際そうでもなかった。
なんでだろう、今でも分からない。
年明けテンションなのか、なんなのか。
俺はそのメールに返信してしまった。
ただ、スルーしておけばよかったのだ。
だから思わず気を許しちゃったんだろう。
送ってくるメールの内容もひたすら普通だったし、当時のことも
本当に悪いと思っているようだったから。
ただ、相手は自分を異性不信におとしめた根源だってことを、忘れてた。
正月ってヒマでしょ?割とみんな、社会人も。
だからメールとかすごいしちゃうんだ、無駄に。
美保とのメールで、
けっこうな事を話したと思う。今行ってる大学、美術部にいること…
だからきっとあの時は何かの間違いで、彼女もおかしかったんだ…
そう思ってた。というか、そうであって欲しかったんだと思う。
このメールしてた時は、
美保は普通な子だったんだ、だからあのトラウマももういいんだ、
っていう証明みたいなものが欲しかったんだと思う。
う〜ん、わかりづらくてゴメン。
この時の心境は、自分でもよく分からないんだ。
俺はほっとしていた。色んな意味で。
その頃だったか。
3月にまた美術部で割と小規模だけどまた展示会があることを聞いた。
さらに、板尾と二人で次の夏のコミケにサークル参加の申し込みもした。
よし、またお絵描き頑張ろう。
色々動き始めている気がした。なんていうか希望や展望に満ちてた。
好感が持てるな。続けてくれ。
色々やりたいことが見えてきて、ワクワクしてた。
まず、心配だったのはそに子の受験だった。私立なので2月に受験だと言う。
なので連絡もあまりとれなかったが、定期的に、本格的に勉強のことを
質問してくる電話がかかってきた。
一生懸命だし、頼ってくれるのはとても嬉しいことだった。
それからはそに子の心配をしつつ自分もひたすら絵を描く日々だった。
そに子が大学に受かっていれば、そに子も展示会を見にこれる。
前回は板尾に頼ってばかりだったけど、今回は自分一人で
描ききって、板尾をビックリさせてやる。
俺の大学の入試の日だった。
俺は力になってやろうと思って、
キットカットを買ってスケッチブックを持って大学へ走った。
走ったと言っても電車に乗って行ったのだが。
生活リズムのおかしかった俺は、久々の早起きで
息上がりまくり、貧血気味でフラフラだった。
そに子に電話した。
俺「はあはあ…今…どこにいる感じ?」
そに子「さっき駅出て…もうすぐ大学に着くよ」
俺「そっか…頑張ってね…」
(よし、このまま正門で待ち伏せだ…)
しかし、合格祈願とか、そういったイラストではなかった。
最初はむしろ渡すつもりも毛頭なくて、好きに落書きしていた。
でも、この絵をそに子に渡したらどうかな…と脳裏によぎった。
合格祈願とかそんなんじゃなくて、
試験前とか休憩中に、俺の絵見たら少しはリラックスできるんじゃないかな
と思ったのである。
なので俺はスケッチブック一冊好きに落書きしたものを、当日そに子に渡そうと決心したのである。
そに子「うわ!華丸さん…どうしたの?」
俺「これ…あげるよ…頑張ってね」
そう言ってキットカットとスケッチブックを差出す。
そに子は怪訝そうな顔をしてスケブをまじまじと眺めた。
でもすぐに笑顔になって、
そに子「何これ、バカみたいw」と言って笑った。
俺「いいから、頑張れよ」
俺は少し恥ずかしかった。
そに子「ありがとう、頑張るね…」
そに子はそういって校門をくぐっていった。緊張が解けたようで嬉しかった。
続きwktk
俺は恋に落ちると好きになった相手しか見えなくなるフシがある。
そして少々やりすぎてしまうことがある。
この件もそうだった。
でもそに子は俺にひくどころか喜んでくれた。
本当に良かったと思う。
受験っていう緊張感もあったからか、なんだか非日常の世界にいる気がした。
たくさん絵を描いたのも、駅から大学まで走ったのも、そに子を待ちぶせたのも
全てが楽しかった。バカなことしてるなあと思った。
でも、そんな自分がなんだかかっこよく思えて、
そに子と自分だけの世界があるような気がした。
本当に恋してたんだと思う。
あとは神に祈るだけだった。
俺はといえば、3月に迫った展示会の絵に向かい合った。
途中経過を板尾に見てもらった。
板尾「まだ細かいとこはあれだけど、なんつーかすげえ気持ち篭ってるな」
俺「今回の展示会は賭けてるからね」
板尾「なんかいつもそう言ってないか…」
俺「うんうん」
板尾「二人で合同本にしよーぜ。なんか一つテーマを決めて。」
俺「あーいいねそれ。すげえ楽しそうじゃん」
板尾「金髪ツインテとかどうかなw」
俺「なんだそれwなら俺はショートヘアの女の子を推すw」
前回個人本だった俺たちは、次のコミケは合同本を出すことにした。
そに子は見事俺と同じ大学に合格した。
そに子から電話があって
そに子「わたしやりました、やりました…うう…」
俺「あれだけ頑張ってたもんねえ」
もちろんどれだけ頑張っていたかは知っていた。だから自分のことのように
嬉しかった。本当に嬉しかった。
それどころか晴れて同じ大学に通えるんだ。
もうるんるんだった。
展示会の絵も筆が乗って、いい感じに進んだ。
展示会が楽しみで仕方なかった。
俺は去年の6月の展示会のようなヘマをすることは最早なかった。
力仕事もするし、部員たちとも男女問わずわりと打ち解けていた。
新部長「華丸よく働くねーw」
新部長は一個上の先輩でこれまた女性だった。
俺「まあ当然ですよねww」
俺にとって展示会はそに子会えた貴重な場だった。
だから展示会はすごくいい気分になれた。
しかし俺はこの展示会についてある一つのヘマをしたことを忘れていた。
美保に自分の現在の大学と、部活を教えていた。
そして美保も今東京の大学にいるらしかった。
そして、ウチの部は割と前からこの日の展示をサイトで告知していた。
当然、この時の俺がそんなことまで頭が回っているはずがない。
俺はシフトと関係なくフラフラ街へ出たり、ギャラリーに戻ったりしていた。
俺のシフトは午後だった。
そに子は午前中のうちに来るというので、俺もそれに合わせることにした。
そに子が来て、俺とそに子はギャラリーの近所の喫茶店でぼーっとしていた。
二人でお絵かきしたりして、
なんというか、嵐の前の静けさだったんだろう。
本当にあるんだね、静けさ。
突然、俺の電話が鳴った。
俺「なんだ、遠藤じゃないか…アイツまた女子に怒られたのか?w」
遠藤「あー、華丸?なんかさっきからお前はいないかって聞いてくる
女の子がいるんだけどさー お前またなんか捕まえたのー?w」
俺「あ…マジか…ちょっとわかんないって言っといて…」
(いや…まさか…そんなはずは…)
俺「いや、わかんない…でもそろそろシフトだしとりあえず戻らないと、だね」
いや、だってまだ誰か分からない。
嫌な予感はしたけど、女性の知り合いが皆無というわけじゃない。
でも心当たりは一切なかった。
大丈夫…俺はそう思ってそに子とギャラリーに戻ることにした。
怖すぎだろ
俺は頭が真っ白になった。
そこにいたのは紛れも無く美保だった。
少し大人びてはいたが。
さらにタイミングが本当に最悪だった。俺はそに子と二人でギャラリーに行った。
誰がどう見ても「一緒に来た」状態なのである。
まあその通りなんだが。
膝が震えて、動悸が止まらないんだ。
いや、美保自体には最早恐れとかのたぐいは無かったんだが
「ここまで来ている」という状況が本当に怖かった。
なぜここにいるんだ?にわかには信じがたかった。
今だから冷静に分析して正月のメールとか、サイトの告知が…
とか原因は分かるが、
その瞬間はもう、何も分からなかった。
美保「久しぶりだね、華丸…、
そっちの子は誰?」
そに子「あ、そに子って言いますハジメマシテ…」
まさに修羅。と思った。。
一体どうなってしまうのか…
でもそうでもなかった。
美保「そっか、可愛い子だね…華丸と仲良くね」
そに子「あ、はい…」
普通である。
俺はほっとひと安心した。
そう思うと急に馬鹿らしくなって、なんか楽になった。
俺がシフトで受付をしてるあいだ、そに子と美保はずっと一緒に展示を見たり、
近所の店にフラつきに行っているようだった。
美保「じゃあね華丸、頑張ってね。」
とだけ言ってあっさり去って行った。一体何だったのか。
俺もシフトが終わったので帰ろうと思って、そに子に電話した。
俺「そろそろ帰るんだけど、一緒にマックでも寄ってこうよ」
そに子「うん…」
やけに暗い声だった。
わわわわわわわわわわわわわわわっ!!!!!!!!
そに子「………」
いやに静かだった。一体どうしたんだろう。
席につくと、そに子はカバンも下ろさなかった。
俺「へ…どしたの…?」
そに子「美保さんは…華丸さんの高校時代からの彼女さんなんですか?」
俺「は?」
そに子「今までわたし華丸さんとすごい仲良しだと思ってて…
私には華丸さんしかいないし、華丸さんもきっとそうだって勝手に」
いやいや、冷静に考えれば俺と美保が付き合ってないなんてすぐ分かるだろ。
どうしちまったんだこの子は。
俺「そんなの嘘に決まってるだろ…!?」
でもよく考えなくても俺はそに子に「好きだ」って一度も言ったことがなかった。
それどころか一緒にいるくせに付き合ってるって形でもなかった。
ただなんとなくいつも一緒にいただけなのだ。
気持ちをハッキリ伝えていなかったから、そに子がこの時こんな風に
なってしまうのは仕方のないことだった。
そに子は泣きながら笑顔を作って店を出て行ってしまった。
俺「いや、ちょっと待てよ…!?」
ああ、一体どんなこんなことを言われたんだろう。
辛いのに我慢して俺と一緒にマックまで歩いてきたのだろうか。
俺はこの時そに子に気持ちを伝えていないことを本当に後悔した。
ある種また異性不信になりかけた。
詰んだ。と思った。
と、同時に美保に対して恐れではなく怒りが湧いた。
展示会は明日もある。
もしかしたら明日も来るかもしれない。そこで、ガツンと言ってやる。
そう決心したが、内心はすごい怖かった。
俺はシフトもないのにギャラリーの隅っこで体育座りしたりフラフラしたり
アイス食ったりして時間を潰していた。
やるせない気持ちでいっぱいだった。
きっといつかアイツが来る…。
すると、ギャラリーの奥でぼんやりしていた俺を呼ぶ声があった。
は?
そこには美保が立っていた。
俺は流石に怒った。普段からビビリだけど。
俺「お前がいつ俺の彼女になったんだ!?」
俺「そに子に何を言った!?正直に言え!!」
もう全力だった。でも声は震えてたと思う。
美保「いや…別に華丸はわたしの彼氏だから、近寄るなってカンジに…」
美保「まあ、そりゃぁ嘘ついたけどね」
お前も俺も、関わったら良い事ないんだよ。分かるだろ?」
美保「でも、わたしはそれでも…」
俺「その気持ちだけでいいから…俺たちはダメなんだ、ごめん」
どれくらいの時間、何を話しただろう。
美保も案外悟ったのか、俺が予想を逸して怒っていたからか、
静かになって帰っていった。
とてつもないエネルギーを使った気がした。
それでかなわないってどんな運動部だよ
信じられないんだが
押し倒された時に壁に背中を打ち付けて凄いむせたんだ。んでその間に
彼女はコンパス持ってきてすげえ振り回し始めた。
あと、正直凄い怖かった。叫びまくってたからね、この世のものじゃない感じ。
どうしたらいい?
そに子はもう2度と戻ってこないんじゃないかとも思った。
そに子に戻ってきてもらうためには、過去のことも、全部話さなければならないと思った。
話したところで信じてもらえるだろうか…?
離れたそに子の心を戻すためには、
やっぱり板尾の協力は絶対必要だった。
幸い、板尾とそに子は面識もあったし、普段からそに子に板尾の話をよくしていた。
こんな友達欲しいと思うマジで
もうすぐ入学式とかも近い頃だったろうか。なんとか入学式は
笑顔で一緒に過ごしたかった。
俺はそに子をファミレスに呼び出した。会って話すのが一番だと思った。
そこには板尾と、もうひとり、高校時代のクラスメイトである市原を呼び出した。
(彼は市原隼人に似ているので)
市原は板尾以外にトラウマのことや俺が絵を描いている経緯など唯一知っている友人だった。
特にストーリーに深い絡みはなかったからだ。
彼は絵を描かないし、そに子や板尾との絡みもない。
この話のあいだにも俺は彼の家に泊まったり鍋を食べたり彼の自転車をパンクさせたりと
色々やらかしている。
でもそんな彼は東大で研究者を目指しているというナイスガイなのである。
ってか寝れねええええ
板尾「いや、女の子一人に対して男3人もいたらビビるだろ…」
俺「あー…」
かくして市原は近所のゲーセンに格ゲーをやりに行ったのであった。
真面目な話、当日集まるまで気付かなかった。
市原本当にすまない。
全て話した。
正直、この話自体するのもキツイのだが、女の子に伝えるというのも辛かった。
なんというか、板尾がいるおかげで話に説得力が出たと思う。
板尾「俺も相談を受けて…」
板尾がそう言う度にそに子は目に涙を浮かべた。
ひどいことした…ごめんね…」
そに子は案の定泣いてしまったのだけど、
何より誤解が解けて、本当に安心した。
全てを話すことが出来て、新しく心強い味方ができたな、とも思えた。
俺にとってそに子はますますかけがえの無い存在になった。
市原「もう終わったの?キスした?キスした?」
東大生だけどまったく空気は読まない市原。
すると、
板尾「まあなんだ…お前もしっかり決めとけよw」
板尾がニヤニヤして言った。
市原もニヤニヤしだす。
そに子の誤解が解けて本当に良かった
するとそに子はハッとしたようにこちらを見る。
両者ともに顔面真っ赤だったろう。
そに子「はい…」
俺「好きです、付き合ってください…」
そに子「はい、よろしくお願いします。」
俺は心の中で連呼した。
俺はその場でそに子を抱きしめた。
そに子は小さい声で「ふふ」
って言った気がした。
この時、板尾たちはどんな顔をしてたのだろう。
ただ、市原の「マジかぁ〜…」
って声は聞こえた気がした。
一体どんな感情なんだ、その言葉はw
思えばあの時は有頂天だった。
板尾も市原も大笑いして「おめでとう!」って言ってくれた。
(市原は舌打ち混じりだったが)
本当に、嬉しかった、本当に。
でも、この喜びは、すぐにどっかいってしまう。
それからは幸せな毎日だったと思う。
そに子は新入生で色々忙しくなるけど、俺が色々サポートして。
楽にとれる単位は?なんてよく聞かれた。
本当に板尾のおかげだったと思う。
俺は思っていた。
「ああそう言えば、去年のコミケで約束した、そに子と一緒に
板尾の美大に遊び行くって計画、いつやろうかな…」
俺「いつがいいかなあ。」
板尾「4月のうちは忙しいでしょう。まあそに子ちゃんも落ち着いたら
ゆっくり来なよw美大の中を巡るツアーをしてやんよw」
俺「まあ言うて俺は何度も行ったことあるがww」
板尾「まあねっw」
書くのも正直辛いんだが、頑張るよ。
これを書くために立てたようなスレだったしね。
あれは5月のはじめだったろうか。GWだもんな。
帰らぬ人になってしまった。
俺は信じられなかった。高校の連中からメールやら電話が来る中で、
俺は段々と事態を飲み込んでいった。
一体、何が起きているというのか?
まったく分からなくなった。
嘘だと思った。嘘なら良かったな、本当に。
俺が信じられないくらい泣きわめくので、多分周りにいる人ドン引きだっただろう。
どうしていいか分からなくなった。
俺はそれから一週間近く家を出なかった。
何も食えなくなって、ひげだらけになっていた。
まさかの急展開だなおい・・・
一緒に合同誌を出すって約束していたこと。
そに子と一緒に板尾の美大を巡る予定だったこと。
そして、板尾にいつか追いつきたかった……
すまんダメだ今俺もボロボロ泣いてる。
少し遅くなるかも、すおまん
俺も悲しい・・・
彼には感謝してもしきれない。
いや、もう感謝とかそんなんじゃなかったんだと思う。
アイツがいなかったら俺は、どうなっていたんだろう。
俺は板尾を見返すと同時に色々恩返しもしたかった。
いつか、いつか…と。
そんな存在が急に目の前から消えてしまった。
ポッと。突然、なんの前触れもなく。
この歳にして親友を失うとは、思ってもみなかった。
スカイプを開いて、つい板尾にチャットを送りそうになってしまう。
そうすると、途方もなく虚しくなる。
これは、今でもたまにやってしまうんだが…
そに子いわく、俺はほとんど笑わなくなったらしい。
辛くて辛くて、もちろんそに子に弱音も吐いた。
そに子は全部受け止めてくれた。
この時も、そに子の存在は大きかった。
でも、それ以上に俺を助けてくれた奴がいる。
それが、市原だった。
それは俺にとって本当に生きる支えだった。
でもこういう時は得てして、男友達の支えというのも非常に重要だった。
メシとかを食べる気力を無くしていた俺を、市原は率先して自分の家に呼んだ。
そして市原鍋を振舞った。(白菜と豚肉をごった煮しただけ)
市原は高校時代3年間クラスを共にした男だった。
一緒にいると本当に落ち着いたし、楽だった。
市原の家に行くのは、自分の実家に帰るような感覚だった。
市原「俺は獣医学を専攻して、動物の研究をするのさ…」
俺「へー…それって面白いのか…?」
市原「面白いとか面白くないとかではないんだよ。それが夢なんだから。」
夢。よくよく考えたら俺の夢ってなんなんだろうか。
まだまだ19の少年だったから、目先の事に頭が一杯で、将来の話をする機会はあまりなかった。
その時板尾はポロッと言った。
板尾「俺は美術教師になる、絵の楽しさをダイレクトに伝えられるから」
俺は夢なんてまったくなかったし、「すげえなあ」
くらいで流してしまった気がする。
夢。美術教師。
この頃からそんなワードが俺の頭をかすめるようになる。
結果は落選。
なんということか。
俺はそに子と一緒に何か本を出すつもりでいた。
目的を失った気がした。
そこに、去年の冬のコミケで一緒にサークル参加した板尾の友人から連絡があった。
俺も漫画家目指して漫画アシしてる。読んでてすごく元気になったし楽しみにしてるよ!
俺「いや、落ちちゃったよ…ダメだった。」
友人「そっか…それなら前回と同じように僕のとこで本を出しなよ」
なんと、またしても板尾の友人が俺を助けてくれた。
これには俺とそに子は二人して大喜びした。
本が出せる。コミケで。
いいひとたちに囲まれてる
俺は本当いい人達に囲まれて生きてきたなって思うよ。
コミケに向けた絵を描いていく日々だった。
そに子は一緒に合同でイラスト本を出すと言っていたが、まだ
デジタルで彩色が上手くできないという事で駄々をこねられた。
なので、結局はそに子はコピーの折り本を、俺は個人誌を出すことにした。
彩色以外は、綺麗な線を描くし、正直俺と対して変わらなかったんじゃないだろうか…
あと、書き忘れてたけどそに子は俺と同じ美術部に入部しています。
でも、特に部活で書くようなイベントがなかったので割愛してしまいましたw
ずっと描き続けて、いつかイラストレーターみたいになれたら…
そんな甘美な夢を見ていた。
でもこの頃から明らかに意識は変わっていたと思う。
よく分からないけど、コミケのイラスト集の絵はただひたすら
集中して描いていた。
それでもたまにそに子から絵の相談を受けたりするので、そんな時は
楽しく絵チャとかやったりして、マッタリ絵を描くこともあった。
もう自信作を描いても、「いいじゃんそれ!」
と言って笑う板尾はいないんだから。
コミケの原稿も一段落した8月の初旬、俺は美術部の合宿に行った。もちろんそに子も一緒に。
夏合宿。まあ、楽しいレクリエーションだ。
みんな夜通し語り明かしたりもする。
俺はこの合宿で相談したい相手が居た。
お前の優しさとか人格がこの文章からよく伝わってくる。きっといい絵を描くんだろうなって思った
ただ、本当に期待しないほうがいいよw俺まったく上手くはないから。
部長は、芸大受験の経験もある、かなりアーティストな人だった。
そう、俺はこの時決心していた。
東京学芸大の中等美術科に行って、美術教師になってやる…
そのためには大学を辞めることや仮面浪人もいとわなかった。
夢が、見えた気がした。
芸大や美大受験とはさすがに勝手が違うが、それでも部長の意見を聞いてみたかった。
本当に大事なものってなくなった後からじゃないと気付かないんだよな。
それでもうダメだ、生きれないよと感じるけどやっぱり前を向いてその人がいない日々を一生懸命生きていかなくちゃいけないんだよな。
本当にがんばろうって思える。
最後まで付き合うぜ!
みんな浮かれ気味である。
俺たち美術部一行は、とある片田舎の避暑地に行った。
バスでは、俺とそに子は隣に座らなかったが、
それをひたすらにブーイングされた。
なんだかんだで遠藤と仲よかった俺は、何故か遠藤の隣だった。
遠藤「今年の一年女子をこの合宿で見極める…」
俺「がんばれよ」
でも遠藤は途中からバス酔いしたので静かで楽だった。
女子が多い部活。
俺は正直海に行きたくて仕方なかった。
でも行き先は高原だった。
俺「着いた〜バスって楽しいねえ修学旅行みたい」
遠藤「水…水…」
コテージ?ログハウス?なんて言うんだろうそんなとこに皆で泊まる。
でも管理人の老夫婦がいたし民宿にも近いのかな。
遠藤「バスケしようぜ〜」
近くには牧場もあったり、自由にスポーツできたり。
緑が綺麗でとてもいいところだった。
そに子「華丸さんバドミントンしようよ〜」
俺「遠藤、そういうことだから。」
遠藤「いやいや混ぜてくれよ」
今思い出すとむずがゆい、でも楽しかった。
明るいうちはみんなでバドミントンとかして、
近くの小川に行って裸足で入って足怪我したり。
食べれる野草を見つけてみんなで騒いだり。
夜には肝試しでお化け役になって樹の枝に腕ひっかけてすりむいたり。
けっこう怪我したwでも楽しかった。
夕飯も終わってみんなマターリタイムである。
俺は建物の外でまだ吸い始めたばかりの煙草を吸っていた。
そうすると、部長がきた。
部長「くさいよ、それ」
俺「あ、すいませ…部長相談があるんです。」
部長「何よw 改まっちゃってw」
俺「俺大学多分やめます」
俺「いや、だから…俺は美術教師になりたいんですよ、はい…」
部長「初めて聞いたな」
俺「そのためには、今の大学じゃ絶対無理じゃないですか。
やめて、今から美大は厳しいですから、学芸の中等美術科に…」
部長「うんうん、分かった分かったちょっと待って。」
俺「はい…」
部長「華丸は中高で美術部の経験があった?」
俺「いえ、まったく…高校では一度も美術の授業すらなかったです…」
俺「まあ…そうなります…」
部長はいつになく真剣だった。部長はスタイルがよくて、
ハキハキしていて、出来る女性って感じだった。だから尚更気迫があった。
部長「華丸がなんで急にそんなこと言い出したのかは分からない。
まあ、なんとなく察しもつくんだけど…
よく考えた方がいいよ。そんなに甘いもんじゃないよ。」
俺「で、でも…」
部長「こんな言い方してごめんね。でももしそれで大学やめて美術の先生になれなかったら?
なれたとして、一生続けられるかな。」
部長は芸大受験に何回か失敗してからうちの大学に来ていたから、
学年一個上とは言え、歳は離れていた。
そういう言葉を期待していたのかもしれない。
学芸の受験自体は、実技がそこまでできなくても
勉強をめっちゃ頑張ってセンターでいい点をとれば可能性はあるかもしれない
ということも分かっていた。
だから部長みたいな人に背中を押して欲しかったんだろう。
俺は落ち込んだ。
一歩踏み出す、きっかけを与えて欲しかった。
俺はここで心機一転するはずだったのに…と落ち込んでいた。
完全に他人に頼っていたと思う。
でも俺は挫けなかった。
夢を追えなかった板尾のことを思うと、美術教師は諦められなかった。
この時の俺は本当に取り憑かれたように美術教師になる、って言ってたんだけど
それが本当の自分の気持ちだったのか、
板尾に対する自分の想いだったのかは、未だによく分からない。
助けを呼ぶ声があった。
コミケで本を置かせてもらうことになっている板尾の友人だった。
友人「華丸君、今ヒマかな?原稿がやばいんだよ、手伝ってくれないかな…」
俺「おお、いいよいいよ。そんなにやばいんか。」
夏のコミケの締め切りギリギリ。まさに友人は修羅場状態であった。
そして、この一本の電話が俺にとって大事な分かれ道だった。
友人「ごめんねー手伝わせて」
俺「いいよいいよーそれより聞いて欲しいんだけど」
俺たちは作業しながら会話をした。
友人「どうしたの?」
俺「今から、学芸行って美術教師になりたい、それって難しいのかな」
友人「そんなことないんじゃないー?」
軽い。予想外の反応だった。
友人「俺の友達で学芸とか教育系の美術科?受けてここに来た子とかいるよー」
俺「え、本当に?」
俺は記憶の糸をたぐりよせた。確かに去年はよく板尾の美大に潜り込んで、
色んな人と関わった。
俺「なんて子?」
友人「石田だよ、石田。」
俺「あ、俺その子知ってるよ……」
その子は石田ゆり子にちょっぴり似ているので石田と呼ぶ。
大学1年の5月くらいにもう会っていた気がする。
板尾が美大の連中を色々紹介してくれた時に、その中にいたって感じだった。
まだまだ異性に距離を置いていた時だったし、
もちろん連絡先も知らなかった。会ったことも4,5回あるくらいだった。
美大に遊びに行った時に、構内で出くわせば、「あ、ども…」くらいの感じだった。
それでもだんだん慣れて話すこともあったが、とにかく「板尾ありき」の存在だった。
板尾が亡くなってからは会ったことはなかった。
この友人を除いて。
顔くらいは覚えていたが、名前までハッキリ覚えている人なんてほとんどいなかった。
ただ、俺は石田さんのことは覚えていた。
俺は石田さんを初めて見た時から、なんとなく「可愛い」とは思っていた。
好きとかそんなんじゃなく、外から傍観する感じで。
だから記憶にも割と残っていたのだ。
石田も呼んで、話聞く?そのついでにさ、ほら、美大の中色々見たりする?」
俺「それはいい考えだね。じゃあそに子も連れてくるよ。」
友人「きっと彼女も色々話聞きたいかもねwできるだけ友達呼ぶよw」
そう、板尾の友人は、俺とそに子と板尾が美大巡りの約束をしたことを
知っている唯一の人間だった。
あの時の計画が、こんな形で実行されるとは。
でも俺は楽しみだった。そに子もきっと喜ぶだろう。
でも善は急げだって言って、コミケの前に行くことにした。
そに子にも話すと、
そに子「え、今なのww でも嬉しい、すごく」
と言ってくれた。そに子も、板尾の死にはショックを受けていたから。
そに子「どうしよう。スケブ持ってくよね?あとは…」
そこまでワクワクしてくれると、こっちも嬉しい。
良かった。
そして美大に行った。俺はそに子と二人で向かった。
正門の前に友人が立っていて手を振った。
友人「こっちこっちー」
でも石田は来てくれたよー良かったね」
石田「久しぶり!」
二人はニコニコしてなんだか楽しそうだった。
俺「久しぶりだね。今日はありがとう。」
自分でも分かるくらいもう女性に対しての苦手意識はなくなっていた。
俺はとにかく早く学芸受験の相談も聞いて欲しかった。
色々見てまわろうかー」
美大の中を歩いていると、色々思い出した。
よく板尾に案内してもらった。
一緒に歩いた、去年のコミケのことも思い出された。
この計画も本当は…なんて思った。
なんだかとっても辛くなった。
そに子がずっと笑っていたのが救いだったかもしれない。
板尾のおかげでこの子にも会えたし…
そんな感傷モードに浸っているうちに美大探訪は過ぎていった。
俺の家に行ってゲームでもやろうよ」
友人はゲーム好きだった。
確かにゆっくり話もしたいとこだったし、家に行くってのはみんな賛成だった。
石田「あたしなんか作るねー」
そに子「わ、わたしも…手伝います…」
そに子は実家暮らしなのでそこまで料理はできなかった。
俺は、女性陣は可愛いなあ、なんて心のなかで思っていた。
そに子も少しは頑張ったらしいw
美味しかった、なんか感動した。
同級生の女の子が作った料理…
その後そに子は友人とゲームを始めた。
俺は色々と石田さんに話を聞くことにした。
石田「らしいね。聞いたよ。あたしも受けたよ〜学芸」
石田「現実的に考えるなら母校の高校の美術の先生とかにも相談したら…?
あたしも高校の時は受験のために美術の先生と仲良くなったよw」
石田「田舎だから予備校も長期休暇とかしか行けなかったし」
俺「なるほどなあ。」
この日話していて分かったんだが、石田さんと俺は
地元が一緒だということも分かった。これには本当に驚いた。
受験は大丈夫。あたしは応援しちゃうな〜」
これが美大生の思考なのだろうか。迷わず応援してくれた。
俺は自分の補って欲しいところを補ってくれるような、
そんな存在が現れた気がした。
石田「華丸君絵を描くの好きなんだね。板尾も上手かったもんね」
話は板尾の話にもなった。
同じ地元に受験、板尾の話…共通の話題が尽きることはなく、
石田さんとは本当に長い時間話している気がした。
そに子に帰り道でちょっとすねられた。ずっと話していたせいだ。
そに子「でも学芸受験のこと相談できる相手できてよかったね。
わたしはそういうの全然分からないし…」
あんたはエライ子だよ。
そして、このすぐ後にコミケが来る。
楽しみ半分、不安半分。
去年のことが懐かしく感じられた。
夢を追おうが、捨てようが、自分の選択次第だし、自由だった。
この時までの自分はある種幸せだったなあと思う。
悩んで、苦悩して。
色んな人に迷惑かけてみて。
夏コミは青春って感じがして、ほんとうに楽しい。
あくまで個人的感覚だが、若さと情熱で溢れている。
俺は友人のスペースで、そに子と友人と一緒に、本を売った。
前回同様、マッタリとだが本ははけてくれた。
すると、予期せぬ人が訪ねてきたのだ。
石田「よ、頑張ってるねー」
友人「おっすー」
俺「あーおつかれー」
正直、ドキッとしてしまった。
純粋に、来てくれたことを嬉しく感じた。
この時、そに子はどんな風に思っていたんだろうか。
コミケ終わった後
石田さん含めて俺たち4人でメシを食べに行った。
俺は、その最中も石田さんに受験関連のことを聞き続けた。
石田さんに少し惹かれていたのか、
「美術の先生のなるんだ」ってことばかり考えていたのか。
両方だったと思う。
そに子はどう思っていたのだろうか。
俺はそれが悪い気はしなかった。
もちろん、そに子への好意は全然生きていたし、
石田さんとの関わりは自分でもよく分からない感情だった。
でも9月に入ると、そんな寝ぼけたことを言ってられない
大きな壁にぶち当たる。
元々俺の家は片親だった。
母と、社会人の兄。稼ぎ手も二人いたので、経済的に困ったことはなかったが。
兄に一度帰ってくるように言われた。
母は入院したらしい。
「これからどうなるんだ?」
「母さんは、どうなるんだ?」
混乱した。とりあえず実家に帰ることにした。
手術は上手くいった。しかしリウマチを発症した。
リウマチとは、手足がかたまって、時期に動かなくなる病だ。
それに進行の早いものだったらしい。
兄「母さんはなんとか大丈夫だったけど、分かってるよな?」
俺「うん…もう働けないし、段々世話も必要になる、ね…」
兄「お前大学辞めるとか言ってたけど」
兄「今まで俺たち散々母さんに迷惑かけてきたんだから」
俺「……」
兄「諦めろ。母さん生きているウチに自立して、立派なとこ見せるんだぞ」
この時俺は号泣していた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう?
自分が世界で一番不幸なんじゃないか、って思うくらいだった。
夢を追いたい、でも今から大学に一から行き直したら…
母が生きてるうちに、立派な社会人になりたい…
母にはどれだけ迷惑をかけたか。
幼い頃から、俺たち兄弟をずっと育ててくれた。
いつか恩返しをする。
そして、俺は人一倍人の死に敏感になってた。
板尾を失った時のことを思い出して、どうしようもなくなった。
諦める。そして真面目に就活して、絵は趣味にする…
そう、決心した。
兄と協力して車を出したり、病院に行ったりしていた。
地元にいると大学の友だちと会えなくて辛かった。もう授業も始まっていた。
でも、俺はこの「諦める」と決心した時、
まず最初に石田さんにメールした。泣きながら。
特に深い意味はなかったと思う。今まで散々学芸受験の相談にのってもらったし、
諦めるなら、はやくそのフシを石田さんに伝えるべきだと思った。
もちろんそに子とは電話とかたくさんしていたし。
俺は石田さんに細かい経緯とかも伝えた。
今思えば、石田さんにはそんなに込み入った事情まで言うべきじゃなかったって反省してる。
でもこういう時って、本当に誰かに話したくなるんだよな。
俺辛い、辛いんだよ〜って。
今日中に終わることを目標にします。ごめん、長くて。
それから数日経った日の夜、石田さんから、
「〇〇駅に来て」とだけのメールが来た。
その駅は俺の実家の最寄りだった。
駅に行くと、石田さんが笑ってベンチに座っていた。
田舎の駅だから、平日夜でも人はまばらだった。
明らかに嘘だった。こんな時期に、大学生が帰郷なんかするか?
まあ本当に何かあったのかもしれないが。
俺「そうなんだ」
石田「直接話したかった…元気かなって。無理してるんじゃないかって」
石田さんはきまり悪そうに笑った。
なんて言ったらいいか分からなかった。
上手く話せなくて何時間くらいそこに座っていたんだろう。
ちょっと絵を書いてくる
一瞬美保を想起したが、それは考え過ぎだった。
石田「華丸くんはさ…そに子ちゃんが大事だよね。」
俺「誰よりも大事だと思うよ。」
石田「わたしはさ…ダメかな、ダメかもね…」
俺「……」
嫌な予感はした。告られたらリア充とか言われそうだが、
この時の精神状態で、誰かを振るというのは、きつかった。
なにしろ石田さんとの関係性は失いたくなかった。
嬉しいことである。とても嬉しい。
でも、今言わないで欲しかった。もっと別に仲良くやっていく方法もあったはずだ。
俺「ありがとう…でも…俺は…」
石田さんは強かった。表情一つ変えなかった。覚悟もしていたのかな。
石田さんは笑って、
石田「じゃあさ、儀式しようよ!」
と言い出した。
俺「儀式…?」
良かったら…付き合ってください!」
俺「ありがとう、ごめんなさい…」
石田「ふられちゃった」
石田さんはニシシとばかりに苦笑いした。
正直、その時俺は気持ちが持って行かれるんじゃないかと思った。
石田「恋人がいる人に告白するなんて、あたし卑怯だー」
石田「そに子ちゃんはいい子だもんね、あたしもがんばる」
何も言えなかった。
石田さんはそう言って改札をくぐっていった。
最後まで何も言わなかった気がする。
遠くで手を振られて、ただ振り返すしかなかった。
あまりに叙情的な景色だったから、ハッキリと覚えている。
自分でもなんだこの状況?ってなった。
心にぽかんと穴が開いたみたいだった。
石田は俺が拾おう
まるで、中学生に戻ったかのような、そんな青臭い自分を感じた。
家に戻ると兄が玄関にいた。
兄「女か。」
昔から兄は鋭かった。
母の病院に行かない夜は何があってもいいように
一緒に家にいて、二人で格ゲーをやっているのが普通だったからだ。
遅い時間に帰ってきたから不審に思ったんだろう。
兄「地元の友達にでも会ってきたのか」
俺「ま…そんなとこ…」
思えば、小さい頃はよく母と病院にきたものだ。
この眼科もそうだった。
俺は診察の時先生に言った。
俺「実は母が…」
先生「そんなことがあったのか…華丸君が小さい時から知ってたからなあ
辛いけど、今はそばにいてあげて」
先生は初老のじいちゃんだ。
これが田舎の地元のいいところだ。
地元に戻れば、家族みたいな人がたくさんいる。
俺は元気をだそうと思った。
こうやって心配してくれるんだ。
石田さんだって、心配だったんだろう…
母のことで鬱屈としていた俺は元気をだそうと思った。
じきに、母は退院した。癌の方は一旦おk、ということになったようだった。
これからは自宅で、クスリで再発防止の抗がん治療をするようだった。
しかしリウマチがあったので、しばらく自宅で療養することになった。
あまり大学を休み続けるわけにもいかなかったので、俺は実家から戻ることにした。
大学、絵、何もかもが久しぶりに思えた。
そに子がすごく心配してくれた。
なんだかほっとした。
だんだんと、日常をとりもどしていく気がした。
できる限り、実家のことを思い出さないようにしていた。
逃げていたのだろう。向き合うのが辛かった。
夢…就活…
この頃絵を描くのがすごくつまらなくなった。
なんで描いているんだろう?
分からなくなった。
板尾がいたらなんて言ってくれたろう。
なんでアイツはあんなに絵を描くのが好きだったんだろう。
俺は分かって気になっていたが、分かっていなかったんだ。
板尾がいなくなって、俺は板尾の代わりに夢を追うような、
そんな気持ちで居たのかもしれない。
異性不信を克服するため、また恋ができるように、落ち込んでいた俺を板尾が
変えるために絵を薦めた。
今ではすっかり異性不信もなくなったし、
そに子がいた。
絵を描く意味が分からなかった。絵を描く必要があるのか。
そう考えだした。
そに子「冬のコミケの当落、もうすぐだね〜」
コミケ…?
俺は夏にそに子と一緒に冬コミの申し込みをしたのだった。
と言っても、そに子が張り切っていたので、全部そに子に任せていたのだが。
俺「コミケ…ね。一人で本出すってのでも…いいんじゃない?」
そに子「…え?」
俺「いや…絵を描ける気がしないし、本出せないわ、絶対」
俺「もう、描かないかもね…わかんね」
そに子「そんなん嫌だよ…そんな華丸さん嫌だ」
俺「なにが?」
そに子「なんで…絵楽しいって言ってよ、一緒に楽しく絵描こうよ」
俺「うるさいなあ、お前に何が分かるんだよ」
そに子「なんで?急に?絵描くでしょ?描かないなんて言わないでよ!」
俺「描かないもんは描かないんだよ、大体こんなもんなあ…!」
珍しく、大喧嘩だったと思う。
この話にこそ合う歌だと思うの
そに子「どうしちゃったの…嫌だよ、こんなの嫌だ…」
俺「俺だって分からないんだよ、なんで絵を描くのか。
絵を描いて夢を追う、それが全てだったんだよ。それがなくなった今意味なんて…」
そに子「絵を描くことに意味なんているの?楽しくて描いてたんでしょ?」
俺「板尾がいた時は楽しく描いてたよ…わかんねえんだよ俺も…アイツがいないと、描く意味ないんだよ…
夢を追ってれば俺の中で板尾がい続ける気がしてたんだよ…」
そに子「そんなの全部言い訳にしか聞こえないよ!そもそも、板尾さんの夢は板尾さんだけの夢じゃないの!?」
そに子は珍しく感情むき出しだった。
そに子「逃げないでよ!現実から!受け止めてよ…夢を諦めたって、
華丸さんが絵を描き続ければ板尾さんは生き続けるでしょ!?板尾さんが華丸さんに絵を教えてくれたんでしょ!?
そこで描くのやめてどうするの……?」
大事にしてやってくれまじで...(´;ω;`)
そに子「それに、私は華丸さんの絵が好きだもん…
わたしだけじゃないよ、きっと、今まで本を買ってくれた人も、PIXIVを見てくれる人も…
そういう人たち、みんな寂しい想いするんだよ…」
最早聞き取れないくらいに泣いていた。
俺「……」
俺はあっけに取られて、何も言えないでいた。
俺は、俺は……
そに子「絵を描くのは…好きでしょ?」
俺「……好きに決まってるだろ」
絵を描くのは好きだ。だから今までずっと描いてきた。
下手なりに、もがきながら、見てくれる人たちがいたし、
ひたすら描きたいものを描いてきた。
思えば、絵を通してどれだけの人に出会い、どれだけの人に支えられたのか。
板尾もそう、そに子もそう、遠藤や石田さんだってそうだったろう…。
コミケで俺の本を買ってくれた一人一人の顔も覚えてる。
あの日、完売した俺たちに拍手をしてくれた隣のスペースの人たちのことも…
気づけば俺もボロボロだった。
俺「…描いて…みるわ…」
そに子「わたしより可愛い女の子、描いてよ」
俺「…それはどうかな…w」
泣きながら笑っていた。よく分からなかった。
と言っても、普段通りに描くだけだったのだが。
普段通りのページ数で、普段通りの絵で、普段通りのイラスト本。
一緒に一冊作ろうと思っていたが
俺はこの一件で怒られたので
そに子「どっちが早く完売するか勝負する!」
と言われて結果個人本を描くことになった。
頑張りつつも普段通り。
それが楽しかった。絵を描くのが、楽しかった。
「理想の女の子を紙におとしこめよ」
やっぱりそれが楽しかった。そに子には悪いが。
吹っ切れてからは、絵を描くのが楽しくて仕方なかったなあ。
本当に楽しかった。
でも俺にはもう時間がなかった。
余裕で買うわ
そして、晴れて冬コミの日がやってきた。
俺もそに子も、もうワクワクが止まらなかった。
もう、存分に楽しんでやろう、そう思ってた。
そに子「ひえ〜…相変わらずすごい人…」
俺「毎回サークル入場だと、なんか申し訳なくなるな…w」
ビッグサイトのやぐら橋前には、相変わらず信じられない数の人がいた。
そに子も俺も、相変わらず自分の本を見ると、
興奮が止まらなかった。
知り合い、憧れの作家さんに挨拶に行って、
前回のコミケの話とかしたり。
見本誌提出するのにテンパったりw
始まる前のワクワク感、ってのは言葉にできないものだ。
ぱちぱちぱち…!
そに子「ああ、始まった…」
そに子は相変わらず顔真っ赤だった。
俺「たまんないよな…この瞬間」
そに子はオンデマンドフルカラーで30部、俺もオンデマンドフルカラーで50くらい。
決して冒険をした部数ではなかった。
「新刊一部、ください」
この言葉を聞くたびにこう、体が熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます!!」
絵を見てくれる人に実際に向き合って本を渡す喜び。
この日そに子も俺もそれを肌で感じた。
去年の冬コミくらいの感動が、あった。
「描いてて良かった…」
そんなことを感じていた。
そに子も俺も、午後に本は完売した。
そに子「ど、どうしよう〜」
そに子は案の定半泣きだった。
俺「頑張ってよかったね。」
これは去年の冬に板尾が言っていたことだ。
そう、頑張って良かった。絵を描いててよかった。
笑ってはいたが俺も泣きそうだった。
これからもずっと、絵を描くぞ…
ただ、俺にはもう時間がなかった。
母のこともすごく心配だった。
母は、手は動かしにくそうにしていたが、案外元気そうで安心した。
良かった。
俺「母さん、俺絵めっちゃ頑張ってんだぜ。たくさんの人が見てくれてさ。」
母「そりゃよかった…。母さんこんなんだから、好きなことあんまりできなくてごめんね…」
俺「そんなことないよ!!絶対に、ないから。俺は大丈夫だからw」
母「はいはい、じゃあちゃんと就活しなさいねw」
俺「えー…w」
兄「俺がしごいてやるよw」
俺はこの時幸せだった。
この先、平凡に、でも幸せに生きていける、そう思った。
最高の正月だなあと思った。
三が日が過ぎて、俺は半年に一度お世話になってる眼科に向かった。
成人式の前に、通院は済ませておこうと思った。
そうだ、眼科のじいちゃんにも教えてやろう、母さん大丈夫だよって。
俺はそんな風に思っていた。
俺「どうしましたか…?」
眼科「眼圧高いね…。視野検査しようか。」
俺「は、はあ…」
「まあ、たまにあることだし、大丈夫だろ。」
俺「あ、あの…?」
眼科「華丸くん、冷静に聞いてね。」
眼科「左目の視野が欠け始めてるんだ…緑内障が発症してしまったんだよ。
一度欠けた視野は、今の技術じゃ戻せないから…」
俺「え?」
眼科「しばらく眼圧を下げる治療をするよ。大学は向こうだっけ?紹介状書かないとだね…」
俺「は?」
もう止めて
泣くわ
眼科「二ヶ月目薬打ち続けて様子みようか。どれくらいの進行度かもまだ分からないしね。」
俺「もしかして、失明とか…」
眼科「何とも言えない、一生失明しない人もいるし、手術でよくなる人もいるし…
とにかく様子を見てみよう。今は眼圧をさげるしかないね…」
俺「絵とか描いたり…目に負担とかって…」
眼科「基本関係ないけど、できるなら目を酷使するのは辞めたほうがいいかな…」
そのため定期的に眼科に通っていた。
でも全然大丈夫だったし、一生平気だと思っていた。
緑内障の原因は、正確には分かっていない。
確かに俺は幼い頃から目も悪かった。
ここにきて、発症してしまったのだった。
ただ呆然。毎日に覇気なし。
今まで当たり前の事が当たり前じゃなくなる?
どうしようか、落ち込んだ。
そして、思った。
絵がもう描けなくなる。
途方に暮れた。
目立った病気の進行はなかった。
眼科「よかった…これならしばらく目薬の眼圧治療でどうにかなりそうだ」
俺「失明とか…ないですか?」
俺は知っていた。日本で一番目か二番目に多い失明の原因は緑内障だ。
眼科「分からないね…ただしばらくはもつと思うよ。でもね、
病気の兆候が出たってことはいつどうなるか分からない。一生大丈夫かもしれないし、
来年だめかもしれない。 向き合っていくしかないんだね…」
家族にも打ち明けたし、
そに子にも相談した。
母は泣いていた。見ていられなかった。
そに子は泣かなかった。
こういう時に、泣かないんだ。強いと思った。
大切にしたいと思った。
でも、もし俺が失明した時、一番迷惑をかけるのはこの子なんだよな…
そんなはざまで揺れていた。
夏が終わり、秋に差し掛かった10月頃。
つい最近だね。
俺は左目に自分でも分かるくらいの違和感を覚え始めた。
目薬治療で落ち着いてたと思っていたから、驚いた。
俺はすぐに地元の眼科に走ったよ。
急いでね。
眼科「これは、まずいな…クスリを強くしたいけど、そうなるともう内服薬とか…あるいは手術…」
俺「そうなりますよね」
俺はもうある種覚悟していた。
ちなみに、緑内障は手術での回復はあまり見込めない。
俺の緑内障の場合は、かもしれんが。
手術はその経過次第。可能性としては手術もあるだろう。
家族は泣いていた。でもきっと応援してくれるだろう。
そしてそに子に話した。
「大丈夫だよ。きっと、なんとかなる。なんとかなるんだよ。」
それはそに子の口癖だった。
なんだか色々思い出した。
俺はずっとこの子を見ていたいし、守りたいと思った。
絵もずっと描きたいな。絵が大好きだ。
そに子と話していると、本当に色々なことを思い出す。
そして現在に至るわけだ。
俺はもっと焦ると思った。
どうしようもなくなって、自殺も考えるかと思った。
でもちがうんだよ。俺は落ち着いてるよ。
今まで絵を描いてきて、色々な人に出会って、色々楽しいことを経験できた。
何より、描いた絵を残すことができた。
楽しい楽しい、って言って描いてきてよかったよ。
きっとこれからも、俺の描いた絵は残るし、誰かの心に残る。
もし、絵を描いていなかったら…そう思うと。
何もできないまま、この歳で緑内障になっていたら、それこそ…
今、こうやって自分の事を振り返ってみて思ったんだ。確信した。
だからこんなんでもスレにまとめようと思った。
絵を描く人、何かに夢中になってる人に伝えたいって思った。
俺は好きなように絵を描いてこれた。
たくさんの人に俺の絵を届けて、見てもらえた。
だから、今すごく落ち着けてるし、
もしも目が見えなくなっても他のことで頑張ろうって、前向きにいられるんだよ。
だから、俺は絵を描き続けて救われた。
こんなまとめ方ですまん。
絵を描き続けて、本当に良かったよ。
趣味に留めちまったが
これ見て益々
絵が好きになった
また、昔にもどれたよ
ありがとう
兄は、働いてる。立派な社会人。
そに子も、元気にやってる。ある種この子とも絵を描いていなかったら出会えなかったね。
俺は…これからどうなるか分からない。
でも絵を描き続けた日々を忘れないで、病気に立ち向かおうと思う。
いつかその日がきてしまっても、また新しく夢中になれることを探すよ。
途中、色々関係ない話とかもあって紆余曲折したけど、読みにくくてごめんね。
もし、今何か夢中になってることがあって悩んでいる人がいるなら、
1つだけ、聞いて欲しい。
偉そうなことは言えませんが、
とにかく続けてくださいね。続ければきっとそれはアナタにとって大切なものになるはずです。
これにて、この話はここで完結です。
本当に最後までありがとう。
自分もいま病気と戦いながら絵描いてるから涙止まらない。
悩むこともあるけど、好きとか続けたいって気持ちを大切にして描くことと向き合っていくよ。
本当にありがとう。
だめですか?
見て、ガッカリされるのも怖いですが…w
ここまで見てくれたなら、そりゃ気になりますよね。
今から描くので、下手したら1時間くらいかかりますが、それでもよろしければ、
のちほどうpしますね。
ありがとう。
病気の進行が止まるように祈ってるよ。
こんなにもたくさんの人に見てもらえて、俺は幸せです。
書いてる最中は辛い時もけっこうあったけど、書いてよかった。
今、絵を描いています。正直、絵をうpするのには悩んだんですが
ここまできたら見たい人も多いと思うので。
とりあえず描いたよ。
思えば、久しぶりに紙に絵を描いた気がする。やっぱり描くのは楽しいね。
スレのイメージが崩れるかもしれないから、
見たくない人はきっと見ないほうがいい。
一応、俺の大切な人を描いたよ。あんまり、似てないけどねw
これからも楽しんでください。
楽しんだもの勝ち
光速で保存した!このスレもテキストに保存しとくよ
最近だらしねぇなって感じた時に見るようにする
そに子かわええ!!!!
良いスレだった。ありがとう。
絵も上げたし、これでもうこのスレは本当に完結だね。
絵を描いててよかったなあ、楽しかった。
これからもしかしたら描けなくなっちゃうかもしれないけど、
それまでまたたくさん描くよ。
みんな本当にありがとう。
最初は迷ってたけど
このスレ立てて良かった。
絵の仕事はどんな経緯でありつけたの?持ち込み?スカウト?
コミケ50部で商業やれるってどんな状況か知りたい
だから正直ろくなものじゃなかったんだ…プロフのページに
メールアドレス貼っといたから、そこ経由できたものだったよ。
そして乙!
話はもう終わりだけど、
帰宅したら、少しみんなの質問にも答えて、最後に現在のこと交えて少し語って終わりにしたいと思います。
まだそに子と一緒なん?
絵も趣味程度で続けるん?
出会った人達が倒れないように
支えてくれてるんだな・・・
俺には何もない。25にもなって情けないな
何も残せずこのまま終わるのかって思ったら、
今うまくいかない事も頑張りたくなってきた
いつか何とかなるって思うよ!
板尾の天命は1を立ち直らせることだったのか、とさえ思えてくる。この話を親御さんが聞いたら、喜ぶだろうな。
良かったら、いつか、その後のストーリーを聞かせてくれ。
また、書いてる途中何人もの「自分も絵が好き」「自分も絵で夢を追ってる」
という方々からレスがあって嬉しかった。
何か届いたなら、本当に、書いてよかった。
本当は全員にレスしたいんですが、ごめん…
でも全部ちゃんと読んでます、本当にありがとう。
いつか必ず出るよ。いつの日か、知らないうちに俺とビッグサイトで向かい合ってるかもねw
単なる興味ですが。
今パッと思いついたのは、武田日向さんや、tomatikaさんです。創作系で活動されてる方が好きです。
先が見えない不安というか。
今毎日楽しく描いていますが、正直もし描けなくなった時のことを考えるとやっぱり怖いです。
でもそれで何もかも投げ出したら、今までやってきたことも無駄になっちゃうよね。
絵があったから今、前向きでいられる中で、それを失う恐怖にも怯えている。
そんなジレンマにもがく日々です。
でも確かに絵を描いてて良かったと心の底から言える自分がいる。
このスレで出会った人たちも、元気に楽しくがんばってね。
それじゃ、長い間付き合ってくれてありがとう。
またどこかで、今度は絵を通して出会えることを願ってます。
描き続けていれば出来るだろうか
お疲れ様、ありがとう。
ありがとう
今自分は受験生で受験する学校への不安とか将来への不安とか色々あったんですが、このスレを見てやっぱり『自分のやりたいことを貫き通そう』と強く感じました。
ありがとうございますm(_ _)m
俺もう一回頑張ってみるよ・・・
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