自分の担当のお祝いでも必ずメーンイベントとなるタワーやクリスタルボトルを注文してきた。そういう時は、用意できる現金が足りなければ売掛にして、また次の日からの稼ぎで少しずつ返す。
昨年のイベントでは400万円近く使ったため、その月に用意できた250万円を引いた150万円を返すのに2ヵ月かかった。それも、必ず毎日通うことはやめずに、日々のお会計を差し引いた稼ぎで少しずつホストに返す。
ソープの出勤は週に5日、休みの日も、直接会ってデートしてお小遣いをくれる得意客と会ったり、店のキャスト表に載せる写真を刷新するために撮影に出向いたりと何かと忙しい。
店が最も稼ぎどきとなる夜の時間帯はホストクラブの営業時間と重なり、出勤できないため、休日を使って収入を補わなければいけない。当然、意中の担当ホストと店の外で会っている暇はない。
■キャバ通いオヤジよりも働き者
歌舞伎町のホストクラブに行くと、どの店にも必ず毎日いるお客様というのが大抵1人くらいはいる。1人で飲みに来て、決まった席に座り、担当ホストとは最早話す話題もなく、気だるく携帯などをいじっていたり、ヘルプの男の子と話し込んでいたり。そして多くの場合が20代の若い女の子である。
「お前だけだよ❤」が営業の根幹にあるホストクラブの中は、自分の指名しているホストが他の女の子にどんな風に接し、どんな話をしているのかがわからないよう、ホールは席ごとの仕切りだらけ、うるさいBGMはかかりっぱなしである。
稀に私のような非常識な客が、隣の席の痴話喧嘩を盗み聞きしていることはあるかもしれないが、基本的には他の客は見えないものとして振る舞うのがマナーとなっている。
ただ、さすがに毎日同じ席に座っている客がいれば、何度かその店に通った客は気づくことも多い。そしてこれといって真新しい話題のない店内では、しばしばそれとなく噂が囁かれたりする。
「あの人、毎日いるよね?」「何してる人かな?」「愛人らしいよ」などなど。ゴシップ好きの皆様ですから、そもそも結構客単価の高いホストクラブに毎日くる資金と時間と体力がある若い女の子がどんな女の子なのか、興味があるのだ。
ホストの売り上げを支え、最もお金を使っている客をエースと呼ぶが、最もお金を使っているかどうかにかかわらず、そうやって毎日来て席に座っている女の子は本数エースなんて呼ばれている。
1回の金額が数十万円というお客ももちろんありがたいのであろうが、売り上げナンバーの他に指名本数も競っていることが多いホストにとっては、それほど高くない会計でも頻繁に来てくれるお客もありがたい。
それに、例えばそのホストがそれほど安定して客が呼べるわけではない新人だったりする場合、呼ばなくとも毎日1卓は自分の席があるというだけで天国である。タバコも吸い放題、ヘルプについて無理やり酒を飲まなくてもやり過ごせるからだ。
キャバクラやクラブにも毎日必ずいる客というのはいるのだが、キャバクラに入り浸っているおじさんが「いいご身分だわ」「仕事しろよ」なんてやや冷笑的な眼差しを向けられるのに対し、ホストクラブに毎日いる女の子は大抵、たまに遊びにくる女の子や何人かで一緒に遊びにくる女の子たちよりも、ずっと働き者である。
おじさま方が老後の暇つぶしや仕事の疲れを癒しに、あるいはちょっとした夢を見に通っているのとはワケが違う。彼女たちの生活は全てがホスト通いを中心に回っている。
私は運良く、2人の現役本数エースを直接知っている。1人は、担当ホストの指名本数に関しても毎月の売り上げに関してもダントツに一番貢献している正真正銘の売り上げ兼本数エースで、月に使う金額は300万円前後という女の子である。
もう片方の女の子は、売り上げについては他に高額を使うお客がいる上に、彼女自身の1回のお会計はかなり少額という純粋な本数エース。月に使うのはせいぜい60万円〜70万円。
彼女たちは見た目の雰囲気も収入も職業も違うのだが、生活を回して行く根幹にあるメンタリティがとても似て見える。
そして、なぜ若い女の子が1回数万円もするホストクラブに入り浸るような生活が可能であるかは、彼女たちの生活を見るまで私にはとても大きな謎だった。
■若くて可愛いのに気だるい
月に300万円使うサヤちゃんの生活は単調である。
毎朝8時に起きてシャワーや化粧などの支度を終え、10時には最寄りの高田馬場の駅で山手線に乗る。鶯谷で降りて店の迎えの車に乗り込み、11時から20時半までソープのキャストとして働く。
手取りが1本約3.5万円の準高級店だが、やや変則的な出勤時間が認められたのと、フリーの客の入りが良いと聞いてすぐに入店した。ソープで働く前は池袋のセクキャバに勤めていた。
20時半ぴったりに上がれた場合、サヤちゃんは急いで一度自宅に戻り、シャワーを浴び再び化粧をして、22時過ぎにタクシーに乗って歌舞伎町に向かう。2年近く通っている大手グループのホストクラブに行くためである。
彼女の担当ホストは彼女が到着すると同時に店から一度下まで降りて来て、一緒に店に入る。VIPルームの一角にはすでにサヤちゃんのキープボトルが並べられた「指定席」が用意されており、彼女は手慣れた様子で割りものや缶ビールなどを注文する。担当ホストは大抵そのまま5分くらい彼女の席につき、その後はシャンパンコールか送り出しの時間まで戻ってこない。
「頑張ってきて〜っていう感じ。別に席に着かないのとかは気にならない。ヘルプと喋ってる方が楽しいし、幹部だからヘルプにも回って欲しい。痛い客と思われたくもない」
などと何かと達観している彼女はそのままヘルプと談笑し、通常営業ではその日自分がソープで稼いだ金額の半分までを使う。支払いは基本が現金。残りの半分は持ち帰ってイベントやお祝いで高額のお会計が予測される日のために貯金する。
自分の担当ホストの誕生日やイベントでなくとも、店の周年記念、ヘルプの誕生日、幹部の昇格祭など、シャンパンを抜かなくてはいけない日は多い。そういう時は安くて10万円、高いと100万単位でお金がかかることもある。
自分の担当のお祝いでも必ずメーンイベントとなるタワーやクリスタルボトルを注文してきた。そういう時は、用意できる現金が足りなければ売掛にして、また次の日からの稼ぎで少しずつ返す。
昨年のイベントでは400万円近く使ったため、その月に用意できた250万円を引いた150万円を返すのに2ヵ月かかった。それも、必ず毎日通うことはやめずに、日々のお会計を差し引いた稼ぎで少しずつホストに返す。
その間でも、何か店で祝い事があればシャンパンを入れる。売掛金の返済期間が伸びることに関しては担当ホストはそれほど嫌がらないのだという。ホストのかけ縛りという営業方法である。
ソープの出勤は週に5日、休みの日も、直接会ってデートしてお小遣いをくれる得意客と会ったり、店のキャスト表に載せる写真を刷新するために撮影に出向いたりと何かと忙しい。
店が最も稼ぎどきとなる夜の時間帯はホストクラブの営業時間と重なり、出勤できないため、休日を使って収入を補わなければいけない。当然、意中の担当ホストと店の外で会っている暇はない。
「一番最初に指名してた頃はアフターもしょっちゅう行って店外でディズニーも行ったけど、今はアフターするくらいなら帰って寝たい。休みも都合が合わないことが多くて会っても急いでご飯だけ食べるとか。月に1回くらいホテル行くか、行かないか」
いかにもソープ嬢的といえばそうだが、暗い色のセミロングの髪にややロリコン趣味の私服を着た彼女は可愛いし、歳も24歳と若い。しかし話すとどこか気だるく、ホストクラブにいる時もそれほど楽しそうにしているとは思えない。
■ホストクラブにいる時間以外は常に出勤
一方、それほど高額は使わないサユリちゃんは、現在の担当ホストと出会ったのはつい5ヵ月前である。
彼女もまた、VIPルームではないものの、通っている小箱のホストクラブに指定席を持つ。別にどうしてもここに座ると決めているわけではないが、なんとなく同じ席に通されることが多い。
彼女は3ヵ月前、担当ホストが上京するのに合わせて北関東から東京に引っ越した。別に同棲しているわけではない。
「地元にいた頃はホストも行ってたけど、出稼ぎに行ったり、地元のデリに出勤したりしながら普通に遊んでた。で、担当に会って、とにかく1万円でいいから今月だけ毎日来てくれって言われて行くようになって、多少は貯金もあったからなんとか毎日行って、出勤増やして毎日行ってた。で、東京来てからも、彼が風邪で休んだ日以外は今のところ毎日行ってる」
彼女の日常はとにかくせわしない。ホストクラブにいる数時間を除いて、池袋のデリヘルに常に出勤している状態で、仮眠はデリヘルの送迎車の中や待機場所でとる。
顔もスタイルも極めて地味な彼女はそれでも1日の稼ぎが5万円に満たないこともある。現金が手元にあるのは数時間だけで、稼ぎのほとんどがその日のホストクラブのお会計に消える。稼ぎがなかった日は売り掛けとなるため、少し多めに稼いだ日でもその返済に消える。
ほとんど化粧もしていない顔はあどけなく見えるが実際は20代後半である。担当ホストは22歳。外でデートしたのはたったの2回で、ホテルや自宅に行ったことはない。
「基本、店にいない時でもLINEはずっとしてる。向こうもマメで、今から寝るとか牛丼食べるとか事細かく。地元の店ではそんなに売れてなかったのに、歌舞伎にきて仕事めっちゃ順調みたいで、ちょっと忙しいみたい。電話とかはほとんどできなくなった。
高額使ってくれるお客さんとアフターとかご飯とかするのは当たり前だけど、私が働いてる時に、初回にきた子とかたまに来るだけのお客とカラオケ行ったりしてるんだろうなーと思うと若干病むけど、実際じゃあアフターとか誘ってもらったとしても仕事できない」
■ホスゲル係数は限りなく100に近い
ホスゲル係数なんていう言葉はないが、彼女たち2人の収入におけるホストクラブ費用の割合は限りなく100に近い。毎日店に行くには資金のほか、その時間帯の自由も体力も奪われる。稼ぎどきの時間帯には出勤できず、そのため他の時間帯は仕事の予定で埋まる。
別に有り余る若さと体力を何に使おうがもちろん女の子それぞれ個人の自由であり、むしろ人を騙したり親を騙したりして得たお金で豪遊しているよりも余程好感度は高い。
彼女たちは彼女たちが自分にいつのまにか課している毎日行くという、一度に高額を使うよりも難易度の高い義務をこなすために、多くの場合には受け取ることができるであろう報酬も放棄して日夜忙しく過ごしている。
担当ホストが着かない席で気だるくヘルプたちと話し、営業後に「どっか連れてって」などとごねることなくさっさと帰り、むしろ自分の担当ホストにすら日常のルーティーンを崩されるのを嫌がる。
ホストからすれば手のかからない最強のお客ではあるものの、彼女たちが支払っている代償に対して得ているものは、他人が外から見ているぶんにはあまりにバランス悪く少ないように思える。
それはおそらく報酬を放棄するほどの何かがそこにあるからである。キャッシュディスペンサーやカモネギなどと自虐しながらも、彼女たちは、おそらくものすごく稀有な誇りとプライドを持って生きている。
そんじょそこらの根性では真似できない単調な行動によって、自分自身の価値と居場所を手に入れ、またそうしてきたことによる自負によって、かけがいのない存在であることのある種の安堵を得る。
少なくとも、イケメンと手繋ぎデートといった恋心よりも、そういった自尊心の方が高額なのはもしかしたら当たり前なのかもしれない。
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